「謙也!」
「は、はい…」
「遅くなるときは先に連絡するように言ったでしょうが!」
「せ、せやかて病院こん近くやし…」
「連絡!」
「はいっ」
まるで新婚とは思えない辛い雰囲気だ。謙也は将来実家の開業医を継ぐ。そのため今我が家の目の前にある忍足医院で勤めているのだが、どうも職場が近すぎるせいか連絡を入れて来ない。今日も謙也が帰宅したのは予定時刻から随分過ぎてからで、私はキレた。なんてきつい奥さんだろうと自分でも呆れた。
「…そない言うんやったら、む、迎え来たらええやん…近いんやし…」
「は?」
「可愛い嫁が迎えに来る方が俺かて嬉しいし…」
「…」
「親父お前ん事気に入っとるからすぐ解放してくれるやろし…」
「なら言わせてもらうけど」
「はいっ…!」
「私だって仕事から帰って来た旦那さんを玄関であったかいご飯と一緒に迎えたいわけよ。新婚らしくキスの一つでも、して」
「…連絡入れます」
こんな感じの新婚生活だが意外と上手くやっていけそうだ。
100412