「コラ朔也!」
「…」
「落書きしたらアカン言うたやろ」
「だって」
「だってやない!これパパの大事な書類なんやで!」
最近は大きくなって行動範囲の広がった息子に日々奮闘中。とは言っても主に私より旦那の蔵ノ介が大騒ぎしている。
蔵ノ介は教育ママならぬ教育パパらしいところがあって、息子の朔也には厳しい。中学の時から光くんや金ちゃんの教育には厳しかったけど自分の息子ともなるとそれはもう厳しい。夜更かし、悪戯なんてすれば雷が落ちる事も多々ある。私だって最初の子なのだからしっかり育てたいと思っているけど、それでも蔵には甘いと言われる。というより蔵に厳しくされる朔也がかわいそうで私がつい甘くしてしまうだけなのかもしれないが。
「ごめんなさいしなさい」
「いやや」
「朔也…!」
「蔵、もうその辺りで」
「あかんこづえ。またお前は朔也甘やかして…」
すっかり頭に血が上ってしまった蔵をなだめて、朔也にはもう部屋に戻るように言った。涙目の朔也は素直に部屋に入って行く。蔵は整った顔を歪ませてカンカンだ。
「朔也は蔵の誕生日に絵をあげるって言ってたの」
「俺の?」
「だから多分絵の練習してたんだと思う。朔也もコレが大事な書類だとは思ってなかったんだよ」
「…せやかて」
「蔵だって大事なものをちゃんと片付けないからだよ」
「……」
薬剤師の蔵にとって大事なものだったのだろう難しい事を書かれた書類は色鮮やかなクレヨンに彩られていた。その中には確かに人とも見えるようなものが描かれていて、それを見た蔵はしゅんと眉を下げた。
「…謝ってくるわ…」
「行ってらっしゃい」
その後心配した割にすんなりと仲直りした蔵と朔也は二人仲良く一緒にお風呂に入って行った。何だかんだで結局は幸せな白石家が好きだよ。
100213