「なあ、きこえるか」
日に日に膨れていくこづえのお腹を見る度に俺は不安な気持ちになった。父親になるという覚悟、それは手易いものではない。それでもそんな俺の不安すら包み込んでしまうこづえ。俺はそれに甘えてばかりだ。こづえの座るソファの傍に座り込み、ひたすらこづえとその中の子に語りかける。
「男なんかな」
「さぁね」
「男やったら…ちょい嫌やな」
「どうして?」
「妬けるやん」
俺の子供とはいえ、いやむしろ俺の子供だからこそ、俺はきっと嫉妬してしまうだろう。大人げないがこづえを取られるのは嫌だ。温かくした部屋で二人共有するソファにもう一人加わってくるなんて正直、
「…複雑や」
「けど女の子だったら蔵ノ介すごい可愛がるでしょ」
「そらもう。ユカリみたいなませた子になったら困るやんか」
「それ、妬ける」
「俺の気持ち分かるやろ?」
「けどきっと、それはないかな」
「なんでや」
俺がそう聞くとこづえは愛しげに自分のお腹を撫でた。その顔は既に母親の顔をしていて俺はなぜか懐かしさすら感じ。こづえは優しい声色で呟いた。
「蔵ノ介と私の子だもん。可愛いに決まってる」
「それもそうやな」
こつん、額を合わせて俺達は笑った。あったかい。卵を温める親鳥の気持ちが分かった気がした。
お前の場所は、俺らがあっためとくからな。
100420