「けけけけ謙也!」

「どどどどどない四天宝寺!」

「ほほほいほほほい!じゃなくて!」

「なんやねん!」

「血が出た!」



ふらり、とよろける謙也を慌てて支える。しっかりしろ、医者。



「えっと、それはどういう?」

「今日産まれそうなの」

「うん、おおおおちお落ち着こか」

「謙也謙也、それ車のキーじゃないよ自転車のキーだよ」



テンパる謙也の脛を蹴り落ち着かせる。どうにか状況を理解したらしい謙也はお義父さんに連絡を入れて、病院を任せたらしい。陣痛はまだ来ないから病院には行かない。30分おきに陣痛が来たら連れて行ってね、と言うと謙也は落ち着かない様子で携帯を開けたり閉じたりしていた。



「なんか緊張するなー」

「じゃあ謙也が代わりに産んでよ」

「いっ、嫌や!」

「陣痛こわいよー」



謙也と二人ソファに座り命名辞典をめくる。男か女かは産まれてからのお楽しみだから、男女それぞれの名前を二人で考えていた。
カチ、カチ、秒針が進む。



「男やったら"なんたら也"がええな」

「女の子だったら花の名前がいいなー」

「けど花って散ってまうやん」

「響きが可愛いでしょ。女の子は響きが大事なの」

「そうなんかなぁ…」



カチ、カチ、長針が進む。



「…っ!」



ズキ、と下腹に生理痛のような激しい痛みが走った。



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