あれから何度も泥のように寝て、深く意識を沈めた。何度かまどろみの中で目が覚める事があって、起きたら隣に謙也居ないかな、なんて珍しく可愛い事を思って隣を見たりした(当然そこは相変わらず空白のベッドだった)。最後に触れた謙也の温もりを忘れられない。
次に私が目を覚ましたのは、ヴーッ、という携帯のバイブ音が響いた時だった。慌てて画面を見るとそこには"謙也"の二文字。熱でおぼつかない指先を必死に動かして通話ボタンを押した。
「…あ゛い」
『あ、すまん寝とったか』
「今起ぎだ」
『休憩やから一旦病院抜けよ思うんやけど、何か欲しいもんある?ポカリとか』
「ん゛ー」
ちら、と向こうの壁の時計を見遣ると針は1時を指していた。もうそんな時間かぁ。午前中の診察時間終わったんだな。謙也が何かを持って帰ってきてくれるって、そりゃ喉も渇いたし新しい冷えピタも欲しかったけど、やっぱり何より。
「謙也」
『ん?』
「謙也が欲しい。寂しい、よ」
浪花のスピードスターの異名は枯れてはいなかった。数秒後彼は手にしっかりとポカリを持ち寝室にやってきた。
「可愛え事言うてくれるやん」
「…ばが」
そのあと私はまた薬をもらった。
100413