私は風邪を引いた。原因は分かっている。今風邪が流行っていてうちの病院の患者さんが増えた。最近病院に顔を出していた私はウイルスを貰ってしまったのだ。
謙也は体力もあるし相変わらずピンピンしていて(いやらしい意味じゃなくて)医者の不養生にはならなかった。



「ほな行ってくるけど…大丈夫なんか?」

「だい゛じょうぶ」

「…今日は夕方診察あらへんから、はよ帰るわな。薬ももろてくる」

「ん゛」

「…ホンマ大丈夫?」

「医者のぐぜに心配しずぎ。病院も近いんだがら大丈夫」

「大丈夫ちゃうやん。自分声めっちゃやばいで」

「うるざい」



謙也の意向によって市販の薬は飲んでいない。下がらない熱のせいで広いダブルベッドの隅っこで「あー」とか「うぇえ」とか言ってたら心配そうに謙也が私を覗き込んだ。別に謙也のせいじゃないのに本日何度かの「すまんな」。謙也の作ったまずいお粥を何口か啜らさせられ、冷えピタを換えてもらった。世話好きな奴。



「寂しくて泣いたらあかんでー」

「誰が泣ぐかっ」

「ほなとりあえず俺から特別にお薬ー」

「あ、あほっ、ベタ」



ちゅ、と謙也が私の頬と冷えピタ超しの額にキスを落とした。耳鳴りの続く耳には確かにリップ音が響いてきてやたら恥ずかしい。満足げに微笑むと謙也は私の布団をぽんぽんと叩き、「行ってきます」と寝室を出て行った。



「余計寂しぐさぜてどうすんの謙也のばがぁ」




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