「へぇ、けっこうお腹大きくなってるね。何ヶ月?」
「7ヶ月くらいかな。いらっしゃい、幸村くん、柳くん」
「お邪魔します」
幸村くんはお花を、柳くんはケーキをそれぞれ手に我が家にやって来た。私が妊娠したのを聞いてお祝いにやって来てくれたらしい。と言っても中々うちに来なかったのは私の体調を心配した弦一郎が断固として二人に言わなかったからだそうだ。
私が二人にお茶を入れようとすると弦一郎がそれを制して代わりにキッチンへ立つ。それを見て幸村くんと柳くんは目を見合わせて笑った。
「あの弦一郎がねぇ…フフ」
「幸せそうで何よりだ」
「ちょっと、冷やかすのやめてもらえますか」
「だって…な?柳」
「な」
幸村くんは中学の時より随分とかっこよくなっていた。以前の中性的な魅力を保ちつつ大人の男性らしさが備わったという感じだ。柳くんは中学の時と比べると益々綺麗になった気がする。男性に綺麗という言葉が似合うのはかなり珍しいがその表現が一番しっくりきた。相変わらず二人とも繊細な顔立ちをしている。それを言ったらきっと弦一郎はやきもちを焼くので、それは思うだけに留めておいた。
「悪阻とかはやっぱりきついのか?」
「最初はきつかったけど最近はあんまり無いかな」
「ふぅん…あ、男と女どっち?」
「それは生まれてくるまでの楽しみという事になっている」
「あ、どうも」
ティーカップが四つ載ったトレイを手に弦一郎がリビングに戻ってきた。幸村くんと柳くんにそれらを渡し、私の隣に座る。
「それにしても精市に蓮二、お前達結婚せんのか」
「したいとは思ってるんだけど、良い人居なくってさ」
「同じく」
「弦一郎がうらやましいよ、澪緒みたいに良い奥さん貰っちゃって」
「精市ならば今にも良い出逢いがあるだろう。蓮二もな」
「ふ、あの弦一郎にそんな事を言われる日が来るとはな」
久しぶりに揃った三強は以前とは違い和気藹々と話していた。前はもっと威圧感とか緊張感が漂っていたのに。赤也が見たらきっとびっくりするだろうな。お腹を撫でながらぼーっと三人を見ていると幸村くんが私に気付き、そっと手を私に伸ばしてきた。
「なに?」
「触らせてもらっても、良い?」
「どうぞ」
「ならば俺も」
弦一郎が拗ねたりしないかちらりと隣を見ると、弦一郎は柔らかく微笑んでいるだけだった。こういう所まるくなったなぁ。幸せをおすそ分けしたいのは私もだけど。
幸村くんの手がそっと私のお腹に触れる。柳くんも同じようにそっとお腹を撫でた。
「元気で、健康な子が生まれますように」
「…幸村くんが言うとなんか重いね」
「あはは」
「ならば赤也よりも賢明な子が生まれますように」
「名指しですか」
「具体例が必要だろう?」
それぞれ願いを込めて撫でる手が気持ち良い。幸村くんと柳くんはあらかた撫で終わるとまた自分の席に戻った。
「楽しみにしてるよ」
そう弦一郎以外に言われて初めて感じた事。それは私たちの子がみんなから望まれて、待ち焦がれて生まれてくるという事。私はそれに限りない幸せを感じて弦一郎の手を握った。
100214