「澪緒、大事無いか」
「うん、大丈夫」
お腹に子供が居ると分かってから弦一郎はトレーニング中でもしょっちゅう電話を掛けてくるようになった。もし電話を掛けられなくても、携帯電話は苦手なくせに短いメールをくれる。前までの弦一郎にしたら有り得ない事だろう。よっぽど愛されているのか心配されているのか、けど私はとても幸せだった。三ヶ月半、まだあまりお腹は目立たない。いつもと同じように家事もこなせるけれど悪阻のようなものを感じるようになっていた。弦一郎を心配症にさせるのはこれだと思う。近頃ろくに食事もできなくて、弦一郎には濃い肉料理を出す反面私はあっさりとした野菜や魚ばかり食べている。その度に弦一郎は心配そうな顔をする。
「ふぅ」
家事に一息ついてソファに座った。今頃弦一郎何してるかな、練習無茶してないかな、とか色々考えたり。そういえばこの子の名前考えないと。
なんとなく考えながらぼうっとしていたら、また胃がむかむかしてきた。悪阻だ。お腹に負担をかけないように、ゆっくりとソファに横になる。
「…はあー…」
気を紛らわすために携帯を開いてみた。新着メール一件。弦一郎。
あいしている
辛いだろうが、頑張ってくれ
悪阻も腰痛も辛いけれどこれが私達の子のためだと思えば笑顔になれた。
苦しみさえ喜び
100129