足取り軽やかに出入口のドアを押すと外で待っていた弦一郎がそわそわとこちらに近付いて来た。
「…どうだった」
「んっふっふ」
「まさか」
「ニヶ月半!」
「でかしたぞ澪緒!」
春に朗報
お義兄さんに催促されてから約半年、ついに神様は私達に子宝を恵んで下さったらしい。
試した検査薬では飽き足らず産婦人科にまでやって来て検査したところ、結果はどちらも陽性。
つまり今私のお腹には弦一郎の子供が居る。
「男か?女か?」
「流石にそれはまだ分かんないでしょうよ」
嬉しそうに私のお腹を撫でる弦一郎。
その顔は喜びに満ちていて、私ももっと嬉しくなった。
私をエスコートするように優しく車に乗せた弦一郎の運転はこれでもかというほど安全運転だった。
「寒くはないか?冷やすなよ」
「急に世話焼きすぎだよ弦一郎」
「ああ、あと洗濯物は入れておいたからな」
気持ち悪い程世話を焼いてくれる弦一郎に苦笑いを零しつつ帰宅。
するとすぐに弦一郎は私に暖かいレモネードを出してくれた。春にしては少し冷える今日、中々気が利きますね弦一郎さん。
私がそれを啜る間にも弦一郎はてきぱきと家事を熟していく。
「澪緒」
「なぁに奥さん」
「奥さんではないわっ」
「で、何」
「いや…そのだな…」
ガチャガチャと食器乾燥機からコップを出しながらどもる弦一郎。前回同様何を恥ずかしがっているのやら。
弦一郎はリビングでレモネードを堪能する私の方を見ると、一度咳ばらいして何事かを呟いた。
「澪緒…」
「はい?」
「…ありがとう」
なにそれ反則技じゃないの。
私はそれにどういたしましてと返し、真っ赤になっただろう顔を隠そうととっくに空になったマグをもう一度煽った。
100124