「ままぁ」
「なにー?」
「あそぼー」
最近の大河は良く喋る。現に今も食器を洗っている私の傍に来て、裾を引っ張っていた。遊んでやりたいのはやまやまだが、生憎まだ安定期に入っていないので先生から絶対安静にするように指示されていた。
「…ごめんね、ママ今遊んであげられないの。パパに頼んで?」
「えー、やだ!ママがいい!」
「ほう、言うではないか」
「パパー!」
子供相手にむきになったのか、弦一郎が大河を高く抱き上げた。大河は声を上げて喜んでいる。
「澪緒、大河の相手は任せろ」
「うん」
ごめんね、と口パクで伝えると「気にするな」と返ってきた。
「大河、テニスをするぞ」
「テニス?」
「パパがいつもしているやつだ。してみるか?」
「するー!」
いつの間に買ったのだろうか、子供用のラケットを大河に手渡しながら弦一郎は微笑んでいた。
「もうテニス教えるの?」
「お遊び程度だ。行ってくる」
「行ってきまぁす!」
「行ってらっしゃい」
仲良くお揃いの帽子を被って玄関に走って行った。弦一郎はとても嬉しそうだ。息子とテニスをするのが密かに楽しみだったらしい。
私は二人が帰って来た時に出してあげるためのおやつを作る事にした。
100603