ちいさなミルクボーロをそれに不釣り合いな程のおおきな掌に幾つか転がし、俺は微笑んだ。
「ほら、大河」
一摘みしてそれを大河の口許へ運ぶと柔らかな唇が開いた。まだ歯も生えていないそこにゆっくりとボーロは吸い込まれて行き、溶けて消えた。大人にすれば淡泊な甘さは赤子にとっては十分に甘いらしく、大河は嬉しそうに笑った。最近大河は喜怒哀楽の中でも喜や楽を表現出来るようになった。以前は怒るか泣くしかしなかった息子が、たった数ヶ月でここまで成長した。
澪緒はあれから適度に息抜きをする事を覚えたらしく、俺のトレーニングの無い日曜等は友人と茶を飲みに行く事も屡々あるようだ。その方が良い。張り詰めて壊れそうな澪緒は出来ればもう見たくはない。俺も慣れない育児を手伝いながら、可愛い息子の世話を楽しむ事が出来る。
「ん、ん」
「まだ欲しいのか?」
「ん」
「ほら」
俺の指も一緒に大河がボーロを口に含んだ。あたたかい。
そしてどうしようもなく幸せだ。
100406