「澪緒」

「もう、いい加減にしてよ!」

「澪緒!」



大河の夜泣きがひどくなってからというもの、澪緒はとても不安定だ。今日もトレーニングを終え帰ると家に響く大河の泣き声と澪緒の怒声。俺は二人を慰めるので精一杯だ。
澪緒の目の周りには濃い隈が出来ていて痛々しい。少しは俺に頼れば良いものを。


「たまには甘えてみたら?」

「気張ってばっかじゃ疲れるぜ」




あの言葉は俺でなく、澪緒に向けるべき言葉だったのだろうか。よしんば俺がそうすべきなのだとしても、今は俺が澪緒を支えてやらねばならない。



「澪緒、落ち着け」

「ごめんなさい、弦一郎、私の、私のせいで」

「…お前のせいではない。無理をするな」



子を持つ事がこんなにも大変だとは思わなかった。覚悟は出来ていた筈だった。
抱きしめた澪緒と大河の温もりがひどく熱く思えた。



「頼りない夫だな、俺は」


100331


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