「…俺は、小春が好きや」
「…本気で言うとん?それ」
「本気や。朔がおらんで寂しいんはほんまやけど、好きなんはお前や、愛しとるんや」
「一氏」
普段の女々しい印象とは全く違う、小春の俺を見る目が変わった。静かな図書室の空気が小春の威圧感に拍車を掛け、正直俺は怯んだ。
「嘘も大概にせぇ一氏」
「嘘ちゃう!」
「嘘ついてへん人間が、そないな顔出来る訳あらへんやろ」
ばっ、と目の前に小春の手鏡が翳された。そこに映る薄暗い図書室の中に浮かび上がるのは、紛れも無く俺の顔だ。そのはずだ。だが俺は見違えた。
俺の顔はひどく疲れた顔をしていた。
「嘘吐きまくっとるからそないになんねん」
「これは、最近寝不足やから」
「他人にも!自分にも嘘ついて!…その内お前はあかんようになる」
お前だけやない、朔もや。
朔の名前を出された途端俺は何も返せなくなった。黙り込む俺を一瞥し、小春は席を立ち、図書室を出て行った。
置いていかれた小春の参考書が、小春の優しさを表しているようだった。
100303