月曜日の放課後、いつもの図書室で私は蔵に気持ちを打ち明ける事をようやく決意した。



「別れへん!」



普段声を張り上げない彼が、その時ばかりは廊下まで響いていそうな大声をあげていた。彼が卒業式の練習の際、名前を呼ばれ返事をする時でさえこんなにも声は大きくなかった気がする。さっきの蔵の声は怒鳴るというより、叫ぶという表現の方がしっくりときた。図書室の空気がぴりりと揺れ、私は蔵に抱きしめられた。



「何でやねん、何で」

「私、やっぱり蔵とは一緒に居られへん」

「ユウジか?ユウジに、何か言われたんか?」

「そうやない、けど、やっぱり私はユウジが好きやねん」

「…あいつは、お前の事何とも思てへん」

「それでも、」

「俺は朔の事めっちゃ好きやねん。そら朔はユウジとの付き合いのが遥かに長いやろけど、俺は中学入った時からずっと朔が好きやった。ユウジに蔑ろにされる朔見とって、"俺なら朔の事もっと大事にするのに"てずっと考えとった!」

「…ごめん」

「なぁ朔、好きやねん。別れたない…!」



私を抱きしめる蔵の腕やその言葉から、蔵は本当に私を想ってくれているという事が痛いほど感じられた。



「ユウジになんか、渡さへん」

「…蔵、私は」

「絶対、別れへん」

「く、んっ」



私は生まれて初めてキスをした。蔵の貪るようなキスが怖くて、そして何より初めてがユウジでないのが悲しくて私は涙した。その涙を見て蔵は一層激しいキスをする。蔵の胸板を押し返そうと爪を立てたが、強く抱き寄せられているためにそれは無駄な抵抗に終わった。



「は、蔵っ、む…」

「朔、どうしても、別れたいんやったら、こっちにも考えがあるで」



もう我慢せぇへん、そう呟き蔵の手が私の制服のタイを掴んだ。行為に及ぼうと私を図書室の机に押し上げ、脱がしにかかっているらしい。



「やだ、蔵やめて!」

「ユウジにならこんなんされたいとか思うん?俺は、あかんの?」

「…っ、ユウジ!ユウジぃ!」

「ユウジはもう帰っとる。小春と一緒にな」



小春、という所を強調し、蔵が私の首に噛み付いた。ちくりと鋭い痛みが走りそこに赤い跡を残す。



「やだ、やだぁ、ユウジっ」



「お前ら何で学校で乳繰り合うとるねん」



私はこのベタな展開を待っていた。古びた図書室の引き戸を開けてそこには私がずっと待ち望んでいた深緑が立っていたのだ。



「ゆ…じ…」

「朔泣いとるやん」

「…ユウジ帰ってんか。これは俺と朔との問題やねん」

「朔めっちゃ俺の名前呼んどったやんか。そんな女犯すとかただの悪趣味やで」

「…」



ずかずかと私達の側まで歩み寄り、牽制するようにユウジは蔵を睨んだ。そしてそれでも私の上から退こうとしない蔵の肩を掴み強引に引き離す。



「…服、なおしよれ」



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