「ユウジくんは将来の夢ってあるん?」
あれはまだ私達が小学生にもなっていない頃だった。将来の夢、をテーマに幼稚園で絵を描く事になった時、私ははっきりとした夢なんて考えてなかったから、ユウジに聞いてみたんだろう。するとユウジははっきりと答えたのだ。
「デザイナーになりたいねん」
「デザイナー?なにそれ」
「服とか考える人の事や」
「あっ、ユウジくんのお父さんがやってるやつ?」
「おん」
「すごいなぁ」
「やろ。朔は何になりたいん?」
「わたしは…わかんない」
「ふーん。ほな、俺と"けっこん"しよ!」
「うん、ユウジくんならええよ!わたし、ユウジくんのお嫁さんになる」
「"けっこんしき"の時の朔のドレスをな、俺がデザインするねん!」
「すごい!りぼんいっぱいつけてな!あと、めっちゃかわいいやつがいい!」
「ええで!俺に任しとけ!」
あの時は恋とか異性だからとかの理由も無く私達はお互いが大好きだった。今思えば幼稚園児の夢に満ちた会話だと思う。その話を私達が私達のお母さん達にした時も、二人はただ笑って「ほながんばりや」とか「朔ちゃんがお嫁さんになってくれるんやったら安心やわ」とか、ただの子供の戯れ事だと思っていただろう。気付けば私は昔の物をしまってある引き出しを漁っていた。小学校、幼稚園のアルバム、その間に挟まれた、鼻をつくクレヨンの香りの染みた画用紙たち。何を描いているのか何が描きたかったのか分からないものばかりだったが、ある一枚の絵ははっきりと何が描いてあるのか分かった。心を弾ませて滑らせたクレヨン。真っ白な画用紙に真っ白に塗り潰されたそれは紛れも無いウエディングドレス。リボンが沢山付いたそれを着てにこにこしているのが私。その隣でにこにこしているのが、ユウジ。
私はあの時を鮮明に覚えている。あの時は大きくなったら当たり前のようにユウジと結婚するものだと思っていたし、本当にそうなるといいなと思っていた。それをユウジも覚えていたのだろうか。
ただそれらを考えて、私が導き出した答えは"私もユウジが好きだ"という事だった。蔵に対してずっと抱いていた罪悪感は、私がまだユウジを想う気持ちが残っていたからだった。
100314