朔は気付いたんやろか。さっき自分を抱きしめた男が俺やと。気付いたかもしれん。俺の名前を呼ぼうとしとったんや。せやけど俺は怖なって逃げた。あいつには白石がおる。そこまで考えて、情けないけど俺は泣けてきた。前に何度も小春にフラれた時とは違うどうしようもないせつなさが俺の心臓をえぐってきたんや。
帰ろうと昇降口まで走って行くとそこには受験を終えて教師に会いに来たらしい小春がおった。
「あら、ユウくん」
「小春…」
「苦しいんやろ。朔ちゃんに言うてきたん?」
「…ああ」
「しゃあないわ。言うんが遅かったんやもん」
小春が言うんは的確な事で、正論やった。俺がもっと早うに朔に素直になっとったらどうなったんやろか。朔は俺を好きになってくれたやろか。
「今更色々考えても、あとは朔ちゃん次第なんや。とりあえず落ち着き」
「こっ…春ぅ…」
嗚咽を漏らして泣く俺を小春は優しく包んでくれた。いつだってガキすぎる俺らを支えてくれたんはこの小春なんや。
100314