「俺の彼女に、何しとるんや?」
「…なんも?」
「朔、来ぃや」
「蔵、あの」
「来なさい」
こんなに冷たい蔵を見るのは初めてだった。蔵は私の前ではいつも笑顔で、髪色と同じようにあたたかかった。それが今はすっかり冷めてしまっていて、小春ちゃんに対するやきもちだとか、それだけではない気がする。つまりは蔵の冷たさの背後にはきっと、そこに考え着くまでに私は蔵に肩を抱かれ、図書室を出ようとしていた。
「蔵リン、必死ね」
「やっと手に入ったんや。渡さへんで」
「どうかしらね」
「…とにかく、俺らに手ぇ出さんといてや」
「はいはい」
あっさりとそう言ってのける小春ちゃんに私はどこか失望のようなものを感じていた。蔵との仲を他人に裂かれるのを待っているのだろうか、私は。そうした所で私には何も残らない。ユウジとは蟠りを残したままなのだ。そしてこの白石蔵ノ介は誰より私を求めてくれている。大事にしてくれる。
「朔、大丈夫か」
「…うん」
「今日はもう、帰ろな」
「うん、ごめんね」
「何言うとるねん。謝ることなんかあらへん。な?」
そう優しく笑う蔵に、私は忘れていたはずの罪悪感がまた疼くのを感じた。
100313