試験から合格発表までは驚く程あっと言う間であった。蔵と小春ちゃんの受けた私立は一週間後に結果を学校まで郵送、私やユウジの受けた私立は自宅に郵送だった。合格発表を見に行く事を口実にユウジと話す機会が無いことを心のどこかでがっかりする反面ほっとした部分もあった。今私は蔵と付き合っている。言ってしまえば彼の女なのだ。その言い方に少し奢りが含まれていないと言えば嘘になるが、蔵の方から告白されたのだからそう思っていても良いような気がする。先日ユウジが蔵と電話する私に絡んで来た事に一体どんな意味があるのか、そしてあの時蔵がユウジに対して何を言ったのかは未だに謎のままであったが、私は私立の合否通知を開封した。合格と印刷された紙を見て思った事はこれでユウジと離れるという道筋が減ったという事。私が合格したのだ、ユウジも合格したに違いない。その通知を封筒ごとスクールバッグに詰め込み、私は学校へ行った。
I学園の合格発表が届くのは午後なのだという。蔵は一体今どんな気持ちなのだろうか。専願で特進クラスを希望して、きっととてつもないプレッシャーを感じているに違いない。
「朔!」
昼休みも終わりかけた頃、一階下の二組から八組まで猛ダッシュしてきましたと丸分かりな蔵が私の名前を大声で呼んだ。数多い蔵ファンの子の悲鳴のような歓声のような声を聞いてやっと私は抱きしめられたのだと分かる。
「く…蔵」
「合格、したんや!」
「えっ…」
「これで、俺の受験も終わりや」
「おめでとう」
私をきついほど抱きしめる蔵は本当に嬉しそうで、普段のクールな彼の面影は無かった。
「二人、付き合ってんの?」
「白石くんと朔が?」
ざわざわ。女の子達のどよめきが一際大きくなった。蔵は人気があるから当然といえば当然だけど。中には"どうしてあんな娘が白石くんと"という声も混じっていて私は鈍く心が痛んだ。そんな私の心を汲んだのか、蔵は私を庇うように女の子を一瞥すると、凛と言い放った。
「そうやで。朔は"俺の"彼女やねん」
手ぇ出したりしたら俺が赦さへん。
と堂々と交際を暴露。しかし私は忘れていた。ここが八組であるという事を。ここには他でもない、彼が居るという事を。なぜ蔵がわざわざ八組でこんな宣言をしたのか理解した。さっきからずっと私達を睨むユウジへの、牽制だったんだと。
100310