『朔お疲れさーん』

「白石君もお疲れ様」

『ちゃうちゃう』

「え」

『名前』

「く、蔵」

『よし』



ええ子やな、と言われて電話越しであるにも関わらず私は頭を撫でられているような心地がした。私立の試験が終ったら私は白石君もとい蔵に電話をする約束をしていたので私は彼に電話をした。
高校からの慣れない帰路を電話しながら歩いていると、私と同じ道を辿る人が居ることに気付いた。そこには、ついさっきまで同じ私立を受けていたユウジが居た。目が合いそうになって咄嗟に私は顔を逸らした。気まずい事この上ない。



「…蔵は手応えどう?」

『ぼちぼちやな。あー、怖いわ』

「きっと大丈夫だよ」

「おい朔」



後ろから肩を掴まれ、恐る恐る振り返るとやはりそこにはユウジが居た。



『誰や?ユウジか?』

「ちょっと、ユウジ!」



貸せ、とユウジに携帯をひったくられ、蔵の声が遠ざかる。ユウジのしたい事が分からない。あの時の事を怒っているのなら私に言えば良いのに。ユウジが蔵に何を言うつもりなのか予想もつかなかったが、携帯を奪われた怒りすら覚えてしまう。



「白石、お前朔とどういう関係やねん」

『どういうて、愚問やな。俺は朔の彼氏や、昨日からやけどな』

「ふん」

『ちゅーか朔に代わってくれへん?ユウジと話するために電話したんとちゃうねん』

「嫌や」

『何でやねん』

「朔は、」

『────────』

「白石…!」

『…解るやろ』

「…どあほ」



蔵から何を言われたのかは聞き取れなかったが、急に威勢を削がれたユウジが私に携帯を返した。その顔は今までに見たことが無いような寂しげな顔で、私はまた罪悪感のようなものが疼いた。



「…すまんかったな」

「ユウ」

『朔、』



ユウジと話そうとしたら蔵に穏やかに咎められた。電話を切る訳にはいかず、私はまたそれを耳にあてがう。それを見てユウジは私を走って追い抜き、先に帰ってしまった。



『朔』

「蔵、さっきユウジに」

『彼氏の前で他の男の話はタブーやで』



ヤキモチしてまうやん、と蔵は明るく言ったがその中に孕んだ黒いものを私は感じていた。







100306


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