私立の受験を明日に控えた今日、三年生は全員午前中に下校する事になっている。そんな日に不運にも日直が当たっている私は一人教室に残り黒板消しの後片付けをしなければならない。それに付け加えもう一人の日直も休み。最悪だ。



「あれ、自分まだおったん」

「…白石くん?」

「あぁ日直なんや。手伝うわ」



急に廊下から声を掛けられ振り向くとそこには2組の白石君が立っていた。手伝う、と言うなり教室に入って来て私の返事を聞くよりも早く彼は黒板消しを一つ手に取った。私の隣に並んで黒板の文字を消す彼に私は静かに話し掛けた。



「あの、悪いわ、白石君明日私立あるんやし」

「大丈夫や。それに私立あるんは自分もやろ」

「ま、まぁ」

「…ユウジと同じとこやんな?」

「…うん」

「最近自分ユウジと話しとるとこ見いひんけど、何や喧嘩でもしたん?」

「そんな事無いで。ちょっとお互い忙しいだけ」

「…寂しい?」



白石君の吐息が耳のすぐそばで聞こえて私は思わず俯いて身体を強張らせた。からかわれているのかもしれない。学校で一番人気のある彼が私の事をその対象として見るだなんて。有り得ない。



「寂しいんやったら、俺が慰めたるで?」

「あ…えーと…」

「自分、顔真っ赤やな。可愛え」

「し、白石君、私なんかからかってもおもろないで」

「からかってへん。俺、朔の事好きやもん」

「…はっ?」

「ユウジより、俺の方が朔の事好きやし、ベタな台詞やけど俺の方が朔を大事にできる。そう自信あんねん」

「からかって…」

「からかってへん。苦しいんやったら、楽になり。俺を好きになり」



見ると白石君の綺麗な顔が私のすぐそばにあった。きっと女の子達が見たら卒倒してしまうに違いない甘いマスクで私を見つめている。そして何より、冗談でもからかってもいない、真面目な顔だった。不可抗力にも彼にときめいてしまって私はユウジに対する罪悪感と共に新しい恋への期待を感じた。



「朔、俺と付き合うてや」

「…」

「…あかん?」

「…ええ、よ」



私はきっと、求められるという事に餓えていたのかもしれない。
白石君から求められるがまま私はその手を取った。ユウジと一緒に居た時とは違うその感覚は苦しくてそれでもどうしようもなく心地好かった。








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