待ちぼうけの微熱
「ひなたちゃん、どぎゃんしたとね?」
カチ、無機質な音と共にリビングの明かりが点けられた。はっと入り口を見るとそこにはお兄ちゃんが居て、私はぐちゃぐちゃになった泣き顔もお構い無しにお兄ちゃんに抱きついた。お兄ちゃんは私を優しく抱きしめ返して、とんとんと軽く背中を叩いた。
「お、お兄ちゃん、がっ…居なく、なっちゃったのかと…」
「少しブラブラしたなったけん…心配ばかけてすまんかったばい」
「お兄ちゃん…っ」
「…そげに、寂しかったんね」
お兄ちゃんは昔から散歩が好きだった。今日はたまたま私が帰る時に行っていたのだろうけど、私はそれだけでだめになってしまった。お兄ちゃんが居なくなることは私には堪えられない事なのだ。
「お兄ちゃんが…居ないと…わ、私…っ」
「ひなたちゃん、俺のこつ、どけに思っとっと?」
「え…?」
「俺のこつ、ただのミユキの兄貴やと思っとう?」
「…私は、お兄ちゃんの事…お兄ちゃんの事、ずっと前から好きだった…」
「一人の男として、見れっと?」
「好き…好き…ぃ」
「俺も、ひなたちゃんの事好いとうよ」
始めて口と口とで交わしたお兄ちゃんとのキスは涙の味がした。初恋が実る瞬間は、私が思っていたよりもずっと切なく、遥かに幸せだった。
100321