わたしの本当
お兄ちゃんとの生活にはあっという間に慣れてしまった。朝お兄ちゃんに起こされて、私が家を出て、お兄ちゃんはバイトへ。私が帰るまでにお兄ちゃんは帰って来ていて、私を迎えてくれる。そんな生活がもう半年は続いただろうか、しかしお兄ちゃんからお兄ちゃんの家族やミユキちゃんの話を聞く事は無かった。何があったのか、何故帰らないのかと疑問は尽きなかったが私は何も口にしなかった。それを言う事によってお兄ちゃんが居なくなってしまうのではないか、嫌われてしまうのではないかと怖かったのだ。
「…おかしいな」
いつも帰る前には家に電話を入れるようにしている。するとお兄ちゃんが出て、今日の晩御飯はなんたらだ、とか何気ない話をするのだ。だが今日は違った。どれだけ電話をしても聞こえてくるのはお兄ちゃんの声でなく、しばらく続くコール音に淡々と聞こえる留守電の声。
お兄ちゃんに何かあったのだろうか、と私は自然と早足になった。駅の人込みを走って駆け抜け、マンションに着くとエレベーターすらもどかしく階段を駆け上がる。震える手で鞄から鍵を取り出し、何度も何度も鍵穴に差し込むのに失敗しながらやっと家のドアを開けた。
「ただいま」
入ると家の中は真っ暗で、人の居る気配は無かった。キッチンからぽたりぽたりと規則的な水音が聞こえる。
お兄ちゃんが、居ない。
いつもなら、お兄ちゃんの「お帰り」が真っ先に聞こえるのに。
「…お兄ちゃん!お兄ちゃん!」
気付いた時には私は叫んでいた。乱暴に真新しいグラディエーターサンダルを脱ぎ捨て、電気も点けないままリビングへ駆け込む。真っ暗なそこにはやっぱり誰もいなくてぽかりと胸に穴が空いた気がした。
また、また何も言わずにどこかへ行ってしまったの?
「お、お兄ちゃ…あ…」
私の目からはとめどなく涙が溢れ、久しぶりに声をあげて泣いた。こんなにも私はお兄ちゃんに依存してしまっていたのだ。
100320