もっと傍に寄りたいなぁ
「お兄ちゃん、何のバイトしてるの?」
「ん?」
同居を始めて数ヶ月。お兄ちゃんはバイトの話をしない。本当にバイトに行っているのだろうかと心配したが毎月決まった日に大抵同じ金額のお金を持ってくるから、働いてはいるのだろうと思う。
ある日私は夕食を食べながら思いきって尋ねてみた。
「カラオケ屋ばい」
「なんか…お兄ちゃんにカラオケってあんまり…」
「似合わん?」
「うん」
「俺も似合わん思っとるよ」
「んー…」
「そげに気になるんなら、見に来ればよか」
「いいの?」
「ひなたちゃんの相手は出来んばってん、サービスするたい」
私は学校が休みの日、お兄ちゃんが働いているというカラオケ屋に来た。カウンターに行くとそこにはお兄ちゃんと違う人が居たけど、用紙に連絡先を記入している内にギャルソンエプロンを着たお兄ちゃんが奥から出て来た。
「ひなたちゃん」
「あ、お兄ちゃん」
「一人で来たん?」
「うん」
「なら帰りは一緒に帰るばい」
「千歳君、彼女さん?」
「か、彼女!?違います!お兄ちゃ…」
「ははは、そうです。可愛いでしょう」
「もう…!」
そうからかわれて、赤面する私をよそにお兄ちゃんは余裕そうに笑っていた。聞き慣れないお兄ちゃんの敬語に胸がときめく。黒いギャルソンエプロンも良く似合っていて格好良かった。
100321