背伸びしてもまだ遠い
「…っ」
お兄ちゃんの手帳に挟まっていた、少し古びたメモ用紙。それは折れた箇所がぼろぼろになっていて、過去にどれほど開かれたのかを伺う事が出来た。
お兄ちゃんは今日はバイトだ。身体のだるさに学校をサボりがちな私は―原因が何かは敢えて言わない―単位の心配もせず家に居る。暇つぶしに部屋の掃除を始めたのが事の発端だった。
「…いい、よね。見ても」
好奇心には逆らえずに私はそのメモを開いた。四つ折になっていたそれがちぎれないように慎重に、震える手で。
そこにあったのはいくつかの数字の羅列と懐かしい一つの名前だった。
ミユキ
「…ミユキ、ちゃん…!?」
ミユキちゃんはお兄ちゃんの家族なのだから電話番号を知っていてもおかしくはないが、普段あまりにも家族の話をしないお兄ちゃんが持っているには少々不釣り合いな気がした。
咄嗟の走り書きのような字で電話番号らしき数字とただ三文字。
そして私も無意識の内にペンと紙を取り、その番号を書き写していた。
100416