きみの寒さを想って震えていたの
「…あ!」
「っ、すまんひなた!怪我は無かとね!?」
「うん…」
「あー、皿割れとるばい」
今日も夕食を終え、汚れた食器をキッチンに持って行こうとした。キッチンから出て来たお兄ちゃんを上手く避けたつもりがお兄ちゃんの右肩と見事に衝突。お皿を落としてしまった。お兄ちゃんはしゃがみ込んで割れた破片を拾っている。
「すまんね、ぼーっとしとったばい」
「ううん、大丈夫」
「あー、粉々じゃ」
「…お兄ちゃん?」
私はお兄ちゃんの挙動に度々違和感を感じる事があった。注意深いお兄ちゃんだが、どうもお兄ちゃんから見て右側にはそれが十分に行き届いていないのだ。今もお兄ちゃんの右側には破片がたくさん散らばったままになっていた。
「お兄ちゃん、そっち…」
「…ああ」「お兄ちゃんってもしかして、右の視力悪いの?」
「…まぁ、左よかは見え難かばってん、見えん訳やなかとよ」
「右目だけ?」
「昔…目ば怪我したこつがあったけん」
「え」
「テニスボールが当たったとよ。そんで俺は一度テニスば止めたったい」
「お兄ちゃん…」
昔お兄ちゃんはテニスが大好きだった。そのお兄ちゃんがテニスを止める否止めなければならない状況に追い込まれたというのはかなり衝撃だった。ボールを当てたのはお兄ちゃんの親友でありライバルだった人らしい。お兄ちゃんはその人の事をどう思っていたのだろうか。割ってしまったお皿や夕食の後を片付け、お兄ちゃんはソファに座ってまた話し始めた。話に興味を持った私はお兄ちゃんの隣に座る。
「そいで、桔平は東京に引っ越し、俺は大阪に越した」
「そっか…」
「あん時ばっかりはミユキも怒っとったばい」
「どうして?」
「ミユキに黙って家ば出たけんね」
「え?お兄ちゃん達家族で引っ越したんじゃないの?」
100324