くちびるがきれた










狂暴です、あまり近寄らないでください。
そう警告しても殆どの人は笑って誰も信じてくれなかった。心配せんでもこづえから千歳君取ったりせぇへん、そう笑う友人に、違う、と言っても通じない。
千歳は狂暴だ。穏やかで、優しくて、大人の余裕を持っているのは確かだ。みんなはそこしか知らない。私は知ってる。千歳の本性を。



「…千歳」

「ん?」

「…汚れてるよ、制服」

「ああ、すまんね」



今日も千歳はふらりと学校を抜け出し、ふらりと戻ってきた。私はもうそのタイミングが分かるようになってしまって、千歳が帰ってくるころに私はいつも屋上へ向かうのだ。既にそこに居た千歳と屋上で二人ぼうっと過ごしていたら、千歳の制服に血の染みを見つけた。当たり前だがそれは千歳のものではない。返り血だ。千歳は私のティッシュを受け取り、染みを拭き始めた。完全に染みきってしまったのかティッシュはま白いまま、千歳の手に握られていた。



「どうだった?今日は」

「つまらんかったばい。ばってん、相手も色んなこつしてきたけんスリルだけはあったとよ」

「…危ないよ」

「危なくはなか」



千歳は喧嘩が得意だ。好きでもなく嫌いでもなく、それは最早習慣のようなものだと言っていた。
千歳は微笑み、手招きして私を側に呼んだ。誘われるがままに寄って行くと千歳の逞しい腕が両脇に滑り込み、膝の上に乗せられる。あまりの体格差にしがみつくように千歳に抱き着くと、千歳は私を包むように抱きしめた。



「…上向きなっせ」

「ん」

「…む」



ちゅっと軽いリップ音を立てる千歳のキス。触れ合うだけだったそれは段々と濃く激しくなり、最後は私が押し倒された。ひやりとしたコンクリートに寝そべる私の上に千歳が覆いかぶさるように這う。一度キスから逃れようとしたらコンクリートと後頭部の間に手を差し込まれ、ぐいと引き寄せられた。



「ちと…せ」

「名前」

「せんり」



名前を呼ぶと、がぶりと唇を噛まれた。だから狂暴なのだ。喧嘩をした後、する前の時も。気持ちが高ぶり興奮しやすくなった千歳は必ず私をかじるように噛み付く。じわりと滲む鉄の味に千歳は至極美味しそうに笑っていた。



「たべたか」

100329





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