あのピアス少年の事だ。
果たして回数指導は日常茶飯事お手の物で、生徒指導室は彼専用になりつつある。
「二年生の財前、出停なるかもしれんねんて」
「あのめっちゃピアスついとる奴?そらそうやろ」
「テニスの全国大会終わって早々やん。そういうん現金やなぁうちの学校」
そんな話を小耳に挟む。風紀委員の私としては黙ってはいられない。所詮生徒会は子供の集まり、と軽く踏んだ教師が、風紀委員に無断で決定したのだろう。何てこと!
入学早々風紀委員会でブラックリストに挙げられている財前光。今まで何度も指導していたからか、少し情が移ってしまったらしい。風紀委員長ともあろう私が、情けない。気付けば生徒指導室に彼を呼び出している私が居た。
「失礼します」
そうぶっきらぼうに言い、彼が部屋に入って来た。相変わらず耳を飾る五色のピアス。それになぜか少しほっとした。
「財前君、自分が出席停止になるかも知れないって、知ってる?」
「はあ、まあ」
それが何ですか、とでも言いたげな目。生意気だ。
「…内申、どうなるか分かってるの」
「テストやったら常に90点台なんで」
しれっと言ってのけたそれ。私だってそんな点数そうそう取れない。けど、点数さえ取っていれば内申が上がるとは限らない。如何に教師の贔屓目を受けられるかが問題なのだ。私も内申のためならどんな教師に対しても下手に出た。つまらない学校生活だと思う。それが今の風紀委員長としての席を得た理由だ。
「校則違反の常習、それに伴う出席停止。ついこの間だって…」
「先輩がこうやって俺に構うから、あかんのです」
「は…?」
「お高く止まった先輩と話せるから、ピアス付けとるんです」
お高く?そんな所はどうでも良いが、今彼が言った台詞は理解出来なかった。彼は私とこうして話すために、校則違反を繰り返しているのか?
「それ、って」
「分からんならそれでええ。けど、そういう事なんで」
「あ、こら、!」
私の制止も聞かず、彼は生徒指導室を出て行った。夕日が申し訳程度に差し込む暗い部屋の中で、私は茫然と立ち尽くしていた。
後日、彼の処分がほぼ決定している事を前提に委員会が開かれた。担当の教師が財前の処分を私達に伝えた。勿論反論があるとも思っていないのだろう教師は財前の話をそこで終えようとした。そう簡単にはさせないのが私。
今までこの四天宝寺では疎まれてきた、一般の基礎を絶対としてきた風紀委員長がたった一人の違反者を必死に庇う姿は余程珍しかったらしい。教師も他の委員も呆気に取られたように私の熱弁に圧倒されている。
どうして私があのピアス少年をここまでして庇うのか。それは私自身にも分からない。
「好きです」
彼の告白を聞くまでは。
100606