あなたの手
やわらかそうな手を引かれ歩いてゆくその子は、何故か私をじっと見つめていた。
「どないしたん」
「謙也」
レジを済ませ、買物袋片手に謙也がコンビニから出て来る。呆然としている私を心配そうに覗き込んだ。
「あの子」
「え、何なん?」
「あの子がわたしの事見てたの」
「…ふーん」
面識の有無どころか、小さな子に縁の無い私がああやって見つめられる事が珍しくて、ついついその親子連れを目で追った。
「あの子ちょっとだけ、謙也に似てた」
「そうなん?」
「ちょっとだけだけど…雰囲気が」
「さよか」
「謙也も昔はあんなに小っちゃかったんだね」
「そらそうやろ。今は170越えやけどな」
私は買物袋で塞がっていない方の謙也の手を握った。あの子の柔らかそうで小さい手とは違い、逞しい大きなそれは私の手をすぐ握り返し包み込んでくれる。
人は生まれた時はみんな赤ちゃんで、年を重ねる毎に成長していく。私は命の姿をその手に見出だすような感覚をおぼえた。私の隣に居る謙也も十五年前はお母さんのお腹の中に居て、"謙也"の名前を貰って、大きくなって、私と出会って。
「謙也、好き」
「な、何やねん唐突に」
「誕生日おめでとう、謙也」
「…おう」
謙也が生まれてきたというこの日に、私は生まれて初めて神様と云うものに感謝した。
「十五年前の今日、謙也が生まれて来てくれて良かった」
「俺も生まれて来て、こづえと出会えて良かったわ」
HAPPY BIRTHDAY 謙也!
100318