いたいのいたいの




※幸村君が軽くエスパー




「幸村様に媚びてばっかりの雌豚は、地面に這いつくばってるのがお似合いよね」



じゃり、とごみが口に入った。こいつの上履き汚い。私の反応が無いのが気に食わないのか、益々強く私の頬を踏み付けた。殴られた手足やお腹が鈍く痛むけど、そんな事はどうでもいい。



「あんたなんかに、どうして幸村様が」

「幸村様の事何も知らないくせに」



親衛隊ぶってるのが笑える。昭和か。精市は一昔前のアイドルか。何も知らない?私が知らない精市の事をあんたらが知ってるようには見えないんだけど。言っとくけどね、私は精市の今日の朝ごはんからナニのサイズまでね、ちゃーんと知ってるの。何なら言ってあげようか。今日の朝ごはんは卵焼きと焼いた鮭の切り身と滑子の味噌汁にデザートはバナナ。ナニのサイズは…てかあんたらがこれ以上の情報持ってたらそれは最早ストーカーレベルよね。犯罪よ犯罪。タイーホよ。
それにしても教室の床って汚いけど冷やっこーい。気持ちいーい。這いつくばってるのも結構楽かもね。



「この豚、日本語分かってんの?」

「マジ寝しかけてない?蹴っていい?」



はっ、寝るところだった。これで私が寝てたらここは寝坊すけとその他大勢の図柄になっちゃうじゃん。ふと振動を感じ、床に耳をつけてみた。近付いてくる足音。精市が来る。
パン!と勢いよく教室のドアを開け放ち、床に寝転んでいる私を見るや否や精市は微笑んだ。



「こづえ、帰ろうか」

「うん」



見ると親衛隊(仮)の奴らの顔がみんなシンクロしててちょっと吹いた。口開いてますよ。やましい事がばれた時の顔って最高。



「部活長引いちゃってね。待った?」

「ううん。別に退屈じゃなかったよ」

「そう?ああ、暇つぶしの相手が居たんだね」

「…うん」



上履きの、きゅ、という音が響く。精市がこっちに近付いてくる。親衛隊(仮)は身動きも取れずその場に固まっている。



「こづえの相手をしてくれてありがとう。苦労かける」

「ひ…ぃ!」



精市が親衛隊Aの顔に手を翳した。す、とそいつの目から光が消え、焦点が合わなくなる。



「あ、あああああ!…見えない、見えない、見え、!」

「静かにしてね」



どうやら精市は親衛隊Aから視覚を奪ったらしい。黙るように優しく諭すと親衛隊Aはその場にくずおれ、「見えない…」と譫言のように繰り返している。


「あ、ああ!」

「ゆ、幸村様ぁ」

「キャアアアア!」

「騒がしいね」



親衛隊Aに続き、次々と親衛隊達の視覚を奪っていく精市。その顔は穏やかで、それでいて楽しそうだった。



「こづえ、立てる?」

「ん…なんとか」



精市の助けを借りてよっこらしょと起き上がる。身体の節々が痛くて筋肉痛に近い感覚がする。ひどく打たれていた足を見ると鬱血していた。明日はタイツ穿いて来よう。



「どこか痛む?」

「ん…いろいろ」

「痛いの痛いの飛んでいけー」

「もう、精市ったら」

「ふふ」



これはただのバカップルのおまじないでなく、精市が手を翳せば本当にそこから"痛み"が消える。これは精市が生れつき持っている超能力だそうだ。詳しくは知らないけど、五感を奪ったり、その応用で痛覚を消したりできるらしい。精市は私を抱き上げ、そこら中に転がる親衛隊だったものをひょいと跨いだ。
最後にリーダー格のような女子の手をぐしゃりと踏み



「次があったら視覚じゃ済まないから」



と言い放った。
精市くんかーっこいい。




100530





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