一番下のボタン
「…一個ずれてる」
「ん?」
千歳と一緒に学校をサボるのが最早私の習慣になっている。今日も二人裏山でにゃんこと戯れていたのだが、ふと千歳の制服の違和感に気付いた。
ボタンがひとつずれているのだ。髪の毛のケアもせずもさもさとしたまま放置、のズボラな千歳らしいミスではあるが、ここまで来ると心配である。中学三年生にして要介護とは。
「あー、気付かんかったとよ」
「着直しなさい」
「…ここで?」
「誰も居ないから」
「猫がおるけん、恥ずかしか」
「恥じらうな。そのまま町に戻る方が恥ずかしいよ」
千歳は渋々と抱えていた猫を「ごめんね」と言ってから下ろし、カッターシャツに手をかけた。ぎゅう、とボタンが穴に擦れる音が微かに聞こえる。千歳の大きな手に比べればとても小さいボタン。ぷちぷちと全てのボタンを外す。うむ。相変わらず良い身体である。
「そげに見んといて」
「…なら早くボタン閉めなさい」
「こづえちゃんにしてほしか」
「は?」
なんと馬鹿な事をおっしゃるのだ。何が悲しくてこんな雰囲気のかけらも無い山の中で彼氏のボタンをとめなければならないのか。
「自分でしなさい」
「またずれてもよか?」
「上からちゃんととめていけばいいの」
「やだ。こづえちゃん、して」
「猫の前でいちゃつけと」
「ばってん猫の前で恥じらうなっちゅーたんはこづえちゃんたい。それに、こづえちゃんは半裸の男を連れて街中歩くつもりね?」
「…くっ」
私は先程の千歳の行動をなぞるように猫を地面に下ろし、千歳のボタンに手をかけた。一番下のボタンのが近かったため、下から揃えてとめていく。
ぴく、とシャツが揺れて、何かと思い上を見たら千歳が笑っていた。
「この構図、えろかね」
「黙れ」
100516