皮肉の話
皮肉だ。
私は忍足謙也が好き。忍足謙也は私以外の子が好き。
「山元さん、自分こないだ休んどったやんか」
「うん」
「ほい、これ」
「ありがとう」
一枚のザラ紙を受け取り、私は微笑んだ。けど私の微笑みなんて彼にとって至極どうでも良いものなのだろう。しかし私にとって彼の笑顔は私の心を揺す振って止まない。そして最も私を魅力する笑顔は皮肉にも、私以外の人の話をしている時なのだ。
「こづえがくれたねん」
「良かったやん」
「へへ」
こづえさん。彼が愛して止まない彼女の名前だ。私が彼女に酷い劣情を抱いているのにこの忍足謙也という人は気付いているのだろうか。こづえさんに貰ったという指輪を手の平で転がし彼は相変わらず嬉々としている。
「ほんま、良かった、な」
こづえさんは幸せやろなぁ。こんなに忍足君に愛されて。私なんかかなわんわ。
しんでまえばええのに。
けど二人一緒に死ねるって聞いたら忍足君絶対喜ぶわ。
100511