ラッピングマイハニ―
ブン太はもてる。言ってしまえば幸村君や仁王のがもてるけど、近寄り難い雰囲気を持つ二人よりも親しみやすいブン太のがよっぽど女の子に好かれている。今日も家庭科の調理実習があった。メニューは定番のマドレーヌ。実習でお菓子を作ると女の子達は当たり前のようにブン太の所へ持って行った。
「ふー、3Bの前の廊下、女子だらけじゃー」
「ご苦労様」
昼休み、女子だらけになってしまったB組から逃げ出すように仁王が私の所にやって来ていた。丸井もようやるぜよ、とか言いながらお前もしっかり手にマドレーヌ持ってるじゃねぇかと突っ込むのはやめた。
「お前さんは行かんでええんか」
「マドレーヌの催促?」
「そうじゃなか、お前さん仮にも丸井と付き合うとるき」
「あー、いいのいいの」
「ほぅ、余裕じゃのう」
「あれで腹膨らませてくれたら帰りに寄り道しなくて済むから」
「ほー、そりゃええ」
「お前ら何やってんの」
「おやおやブン太君じゃないですか」
「プリッ」
なんだかB組の方からざわめきが近付いてるなぁ、何だろうなぁとか思っていたら騒ぎの元凶そのものが近付いて来ていたからなのであった。ブン太はマドレーヌをこれでもかとばかりに詰め込んだ学校指定のサブバッグ×3を手に私の教室へ入ってきた。何だその荷物は。お前はコミケ帰りの人か。
「はぁ?それヒロシの真似?似てねー」
「似てなくてすいませんねぇ」
「いや、イントネーションは似とったぜよ」
「ありがとう」
「つかなんで仁王居んの。こいつ俺の女だから」
「おっと出ました"俺の女"発言」
「ブンちゃんやるのぅ」
「るせー。つかさっさとどっか行けよ仁王」
「あー、フラれてしもうた。雅治君は帰るナリよ」
仁王は教室の外に固まっている女の子達を掻き分けてへらへらと帰って行った。気まぐれな奴。それにしてもブン太は怒ってる。そんなにヤキモチ妬かなくてもいいじゃないか。むしろ妬くべきは私なんじゃないか。
私達三人のやり取りを見ていても未だに帰ろうとしない女の子達にブン太は見向きもせず一言。
「煩いから帰って」
「(鬼…)」
きつく言われたにも関わらず女の子達はきゃあきゃあ黄色い声をあげながら散って行った。恋する乙女って強い。
「…おい」
「…何その手は」
「お前も作ったんだろぃ、マドレーヌ」
「ああ…やっぱりいる?」
「当たり前じゃん」
「はい」
「は?何これ炭?」
「一応君が鞄に詰めてるものと同じ名称のお菓子なんだけど」
「うわ、これが食い物とか有り得ねー」
私が渋々マドレーヌ(炭)を渡すとブン太はぐちぐち悪態を吐いた。そんなに言うなら食うな、と言おうと思ったらすぐにそれはブン太により完食。自分で作っておいて何だが胃袋大丈夫か。
「見た目よりは美味かったぜぃ」
「そりゃ良かった」
「じゃあこれお返し」
「…は?」
ブン太はサブバッグの中から綺麗にラッピングされたマドレーヌを一袋取り出した。いやいや、いらないし。ブン太が貰ったのにその彼女が食べるって新手のいじめだよそれ。女の子に悪い。あれ、私彼女なのになんでこんなに遠慮してんの。
「…食べて良いんですか」
「はぁ?誰も中身やるとか言ってねぇだろぃ」
なんだそれお前は一休さんか。そう言うとブン太は綺麗なラッピングをぐしゃぐしゃと解き、袋を留めてあったピンクのリボンを抜き取った。それを器用に私の髪に縛りつけて満足げに笑う。は、なにその顔。反則だし。
「ちょう可愛い。似合ってる」
「ど、どうも」
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