きよらかな嫉妬









「こづえ、帰るぞ」

「あ、はーい」



私は柳を待つ間相手をしてもらっていた柳生と仁王に手を振り、昇降口を出た。
肌を切るような冷たい風に私と柳は晒される。柳の控えめな咳払いがやけに響いた。



「今日は幸村?」

「入院中の遅れた単元で解らない所があったらしい」

「わ、珍しいね」

「基本さえ解れば応用もすぐ出来るようになっていた。流石は幸村といったところか」

「あったまいー」



吐いた白い息が顔にかかる。
相変わらず寒い寒いと言いながら掌を擦り合わせていると剥き出しだった首にマフラーが絡み付いた。
はっと柳を見ると相変わらずすました顔で居たのでお礼を言いそこねてしまう。
私が言葉に詰まっていると柳の口は緩やかな弧を描いた。



「俺はあまり寒くないんだ」

「あっ!…りがと…」

「女性は冷やすと良くないぞ」

「うん…」



嬉しくなってマフラーに顔を埋める。柳の匂い。真新しい畳の匂いがする。落ち着くこの薫りが私は好きだ。



「ところで、だ」



柳が笑いを含んだ声で話し始めた。一体何なんだ。



「先程の光景は、何かの作戦か?」

「へ」

「柳生に仁王」

「あ、あれは…!」

「あれは、何だ?」



驚いた。柳が嫉妬をするような事もあるのかという驚きと、それを気にしていたのかという二つの驚きだ。



「柳を待つのに、付き合ってもらってたの。ごめんね」

「ほう」

「…ていうか柳、結構余裕無かったり?」



茶化すように言うと柳の眉がぴくりと動いた。いつもは私ばっかり柳にからかわれて終わるのだけど、今日ばっかりは違うぞと少し勝ち気になる。



「そうだ。俺には余裕が無い」

「あは…え?」

「お前が好きでたまらないから余裕が無い。余裕が無いから気になる。つまりは嫉妬だな」

「…よく真顔でそんな事言えるね」

「冗談ではないからな」

「私もポーカーフェース習得しようかな」

「お前には無理だ」



やっぱり敵わない。
私にできる事といえば耳まで真っ赤になった顔をマフラーに埋めて隠すことだけだった。







100114





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -