噛み痕のプレゼント
何が欲しいか、とか誕生日前にそれとなく聞くようなのは苦手で、不器用な私は当日実際に彼に聞く事にした。我ながら気の効かない彼女かもしれない。
「そうやなぁ…」
「何でもいいよ。肩叩きでもするし」
「ほな…」
白石がカッターシャツの左腕側を捲り、その細い腕をさらけ出して私の目の前に突き出した。何。確かに私より細いし白い。自慢か。
「…え」
「噛んで」
「はぁ?」
噛んで、と意味の解らない注文をする白石を見上げてみたが、真顔過ぎて私が恥ずかしくなった。女王様もびっくりな性癖だ。注文が最初からハード過ぎる。
「何でもしてくれるんやろ?」
「…」
意を決して私は目の前の皮にがぶりと噛み付いた。どちらかと言えば歯で挟むというほうが的確な表現かもしれない。第三者から見たらなかなかシュールな光景だ。むに、と鳥の皮みたいな、感触。
「こんなん噛んだうちに入らん。もっと強う」
「覚悟しやがれ…」
がりっと強めに噛み、白石を上目遣いで見るとうっすらと目を閉じて恍惚の顔を浮かべていた。
「あぁー…気持ちええ…っ」
「…」
「もっと、ちゃうとこも」
もっと、と可愛く(かは謎だが)ねだられて私は歯を一度離し、また今度は手の甲に噛み付いた。さっきまで噛んでいたところにはくっきりと赤い跡がついていて、キスマークとは違う色気を感じさせる。
あれから一年、跡が消える前に常に蔵ノ介は噛む事をねだった。その腕には包帯が負かれ、その下は私と蔵ノ介との秘密だ。あの後改めて「欲しいものは無いか」と聞いたら「この歯型がこっから先も欲しい」だった。テニス部に新しく入った一年生のしつけに使っているらしいその腕は私と蔵ノ介との関係を表している。これから先も彼の手に包帯が巻かれ続ける事を願い今年も彼の腕を噛んだ。
「これはお前に噛まれるための腕なんやで」
お義母さんが聞いたら何て思うだろうか。彼は愛しげに包帯越しにそこにキスをし、指を滑らせた。ごめんなさい、頂きます。彼を産んでくれてありがとうございますお義母さん。
HAPPY BIRTHDAY 白石!
100414