まみれて






「とりあえずチョコ塗れのこづえが見たいな」



溶けチョコレートがたっぷり入ったボウルを持って幸村が走ってきたら全力で逃げろと柳が言っていた。幸村が本当にそうする確率は89%と何とも嫌な確率だったが本当にこうなるとは私はびっくりだ。というよりここはコートの中だぞ。零れたら誰が掃除するのか分かってるのか。私だぞ私。



「あ、ちょっと、逃げないで」

「チョコレートプレイはシチュエーション的に間に合ってます」

「良いじゃないか。ベタこそが王道、王者の通る道だよ」

「何もっともらしい事言ってるんですか。殴りますよ」

「あは、こづえ怖いなぁ」



さすがは王者の中でも頂点に立つ男。器用な事に肩に上着を引っ掛けたまま着実に私に近付いている。高校生になった今でもそのスタイルを維持するつもりかと悠長な事を考えている暇は無かった。幸村特有のゆるくパーマがかった髪はボッサボサだがその顔はやけに爽やかだった。



「くっ…り、リズムに乗るぜっ!!」

「ふふ…浪速のスピードスターの方が上やっちゅー話や!!」

「うぉ、モノマネでも負けちまった」

「とか何とか言ってて良いのかな?」

「わ、近!!」



必死に速度を上げようと頑張ったが既に私の足は萎えかけていて、あっさりそのまま捕まってしまった。こ、こいつ、本当に二年前まで死にかけていた男か。



「どうやって食べてほしい?」

「いや、私なんてまずいよ。真田にしなよ」

「嫌だよ吐き気がする」

「またそんな酷い事言って、真田が泣いてるよ?」



はっとベンチを見れば少し涙目に見えなくもない真田が居た。ごめん真田。できれば助けて欲しい。あとこっちを見てほくそ笑んでいる柳も後で校舎裏に来い。



「はいザー」

「どわぁぁあ」



本当に掛けやがった。頭のてっぺんから生温い感触が伝ってきて顔まで流れた。ぺろり。甘い。ミルクチョコだな。



「ああ、美味しそう」

「どうしてくれるんですかこれ。あーあーユニフォームまでベタベタだ」

「どうしてくれるんですか、っていうか、俺が責任取るけど」

「でしょうね」

「とりあえず部室行こう」

「え、ちょ、あ」



引きずられるままに部室へイン。中等部のよりも立派なそこの扉の鍵を後ろ手に閉めて、幸村が舌なめずりをする様はまさに魔王。



「はいいただきまーす」












100216




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