哀しみの纏わりつく首筋









「ひかるくん、今年チョコ何個貰えそお?」

「うち、白石先輩よりひかるくんにあげるぅ」

「はぁ、どうも」



バレンタインが近い、という事もあって光は瞬く間に女の子に囲まれている時間が多くなった。光から女の子の香水の匂いがするようになった。甘い声で"ひかる"と呼ぶ声が聞こえる度に私は耳を塞ぎたくなった。
尤も、光は以前からモテていた。あの白石先輩を筆頭にテニス部が期待する逸材だとかいう肩書きとクールな外見がたまらないらしい。そんなの光じゃない。私が知ってる光は自分の感情に不器用で、優しくて、子供っぽくて、とにかく表面だけの光を好きという女の子なんかに負けたくなかったから私は一生懸命かわいくなろうとした。釣り合うようになりたかった。けど光から私に告白したという噂が広がってからはぱったりと止んでいた女の子達は、二月を境に彼女の私なんてお構いなしに教室で光にベタベタベタベタ。



「何ブッサイクな顔しとるねん。こづえ」

「…モテモテの"ひかるくん"にはわかりません」



女子の群を掻き分けて光が私の前に立っていた。可愛い女の子達を捨ててまで光が私のところに来てくれたのが嬉しかったけど、私は素直じゃない返事を返してしまった。なにこれ、私嫉妬してるってまるわかり。



「なんや、嫉妬やん」

「すいませんねぇ、ブッサイクで。ほらほら、あっちに可愛い女の子がいっぱいいますよー」

「あほ、俺からしたらあいつらのがもっとブスや」



とんでもない爆弾発言をしてから光は私の手を掴んだ。そのままぐいぐい引っ張るとまた女子の海を掻き分けて教室を出る。静まり返った薄暗い北階段まで来ると、光は開口一番"寒っ"と言った。



「当たり前だよ。冬だから」

「ま、しゃーないわ。ん」

「なに」

「来て」



腕を広げる光の胸に勢い良く飛び込むと、光はよろける事無く私を受け止める。ひやりとする学ランの中からじわじわ伝わる光の僅かな体温を二人共有していると、唐突に光の頭ががくっと下がった。



「あー、おちつく」

「なによ、いきなり」

「あいつら臭いねん。やけどこづえはめっちゃええ匂いする」

「ふーん」

「白石部長やないけど、こづえの髪シャンプーの匂いしてええな」

「そっか」

「顔赤いで」

「…確信犯」

「うわ、やばい」

「なにが」

「やっぱしこづえかわええわ」



そう言って光は私の首に小さく噛み付いた。






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