握り潰して欲しいこの心臓









「ねえねえ光くん」

「ん、こづえ」

「今から敬語喋って」

「何やねん唐突に」



唐突にというか、前々から思っていたことだけど。私はテニスの先輩達と話している時の光の敬語がけっこう好きだったりする。少し崩した言い方や、独特のイントネーションが好きだ。私ってば敬語萌とかそういう類なのかもしれない。そう説明すると光は少し困ったように眉を寄せたけど、一度軽く咳ばらいして口を開いた。



「わかりました」

「…」

「どうしはったんすか、急に黙って」

「…もえ」

「そっすか」



悶える私をよそに光はバリッとパンの袋を破いた。広い屋上に音が響きそしてすぐに風に掻き消された。



「…やっぱ屋上寒いっすわ。まだ早かった」

「そ、そだね…じゃあ何で今日は屋上でお昼を?」



今日一緒に屋上でお昼を食べようと言い出したのは光だ。今は二月下旬、まだまだ肌寒い。光と私は時折かじかんだ指を揉んだり擦ったりしながら食事をしていた。



「ここやったら、自由にこづえに触れますし?」



光の目が私に目をつむるようにサインした。恐る恐る目をつむると、しばらくして唇にひやりとする感触があった。がちがちに固まる私の唇を解すように光の唇が触れていく。あ、やっぱりだめだ、光キスうますぎ。忍足先輩がずっと前に私に警告してた気がする。財前のキスには気いつけや、ひやかすように言ったあれってそういう。



「ひか、る」

「やっぱ、あかんわ」

「え」

「こづえとキスしとったら、敬語使う余裕無くなる」



そう言って光が私を抱きしめたから、どうかこの騒がしい心臓の音が光に聞こえませんようにと祈った。





100207





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