瞳にこころ











年下に対して恋愛感情を抱いた事は無かった。十五年というこれまでの短い人生の中で恋愛経験なんて微々たるものだけど、私が年下に対して恋をするという事は無いと思っていた。その観念を見事に覆してくれたのが二年生レギュラーの彼、通称天才な財前光だったのだ。



「あ、先輩」

「な…いだっ」

「あー、せやから言うたのに」

「ボール飛んきた時くらいもっと緊迫感のある声出してよ」



痛い、とボールの当たった肩を摩っているとその上から財前の手が重ねられた。そして痛いの痛いの飛んでいけーとおまじないを掛けられた。私の方が一年だけ年上だというのにひどい扱いである。だがこれが彼の優しさ、所謂デレであるから嫌いにはなれなかったし、その使い古されたおまじないも効果を発揮するのだ。



「すまんなマネージャー!」

「ええけど、次ホームラン打ったらドリンク抜きやでー」

「ボール避けれんとか、テニス部マネージャー何年やっとるんすか」



おまじないの次はダメ出しをされた。財前の立ち居振る舞いは正直三年生の私や忍足よりも落ち着いていて大人だと思う。冷めているとも捉えられるがそれは違う。財前に一目惚れした時から数ヶ月間彼を見続けた私が気付いたある事を、このテニス部で一体何人の人間が知っているのだろうか。



「ちゅーか光、試合は?」

「今からっすわ」

「ガンバ!」

「は、ウザ」



軽口を叩きながら財前がコートに入る。いつもダブルスの財前は今日は珍しくシングルスだ。相手はそのダブルスの相方忍足。なかなか見られない組み合わせという事で白石や小春ちゃん等レギュラーも観覧していた。



「財前、手ぇ抜いたらアカンで!」

「ええですけど先輩、ソッコー負けんといてくださいよ」

「ふん、言っとれ」



忍足のボールから始まった。速攻がモットーの忍足は素早く攻めてくる。財前はそれを的確に返しながら長期戦に持ち込もうとしていた。



「謙也は長いこと試合すんの嫌いやからなぁ、ええ戦法やで財前」



白石が丁寧に隣で解説をしてくれていたが、私は財前のプレイに夢中だった。額に汗を浮かべてラケットを振る財前はとてもかっこよかった。そして何より私は彼の目が好きだった。冷めてなんていないんだと言える程の熱いこころを秘めた目をしているからだった。



「財前!」



ざわめくフェンスの周りで私が声を張り上げて応援すると、財前は一度だけこちらを盗み見て、にっと笑った。




100306





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