君を描いた








「君、いつもここに来るね」



どきりとした。わたしは幸村君に淡い恋心を抱いているのだから。何時だったか、テニス部の練習が無かった時に彼はここ、美術室で一人絵を描いていた。たまたま美術室に忘れた絵の具セットを取りに来たわたしは一目で彼に心を奪われた。惚れっぽくないわたしだがそこで絵を描いている幸村君自身がまるで絵の中の人であるような、綺麗なシーンだったから。それからわたしは事あるごとに美術室に来るようになった。初めはそれとなく忘れ物を取りに来たふりをしていたけど、今では美術の先生とも仲良くなって、幸村君と同じように優遇されるようになった。



「美術室、好きだから」

「ふーん…美術部だっけ?」

「ううん、帰宅。幸村君は…テニス部部長だよね?」

「ついこないだなったばっかりだけどね」



うちの美術部はあってないようなものだ。全員が幽霊部員なんてどうかしてる。けどおかげで私と幸村君二人だけの空間が存在している。そして幸村君はたまに私に話かけてくれるのだ。



「今日は練習無いんだ?」

「テストが近いからね」

「幸村君勉強しないの」

「俺、今回は自信あるんだ」



そう言って彼は柔らかく笑い、また筆を動かした。やや小さなキャンバスに何かを描いている。覗き込もうとしたら、幸村君がさっとそれを隠した。



「ひみつ」



悪戯っぽい子供らしい笑顔。話してみて初めて解った、こんな所も大好き。






それからしばらくして、幸村君はぱったりと来なくなった。なぜかと美術の先生に聞いたら、悲しそうに教えてくれた。
幸村君が大変な病気だなんてわたしは信じない。嘘だ。少し前まで彼は元気にテニスコートを駆けていたのに。彼があんなにも儚げな雰囲気を纏っていた理由が皮肉にも今分かった気がした。
彼はすぐに入院したらしい。だから学校にも来なくなった。彼の病気は治るのかと先生に問い詰めたら。詳しくは知らないがおそらくは、と悲しげに首を横に振られた。





もうここにはこない





そして今日わたしはまた美術室を訪れた。そこに幸村君は居ないという事が分かっていてもわたしの足は無意識の内にそこへ向かっていて、わたしもそれを止めようとはしなかった。教室に足を踏み入れた瞬間わたしはふと違和感を感じた。
幸村君がいつも座っていた窓際の席、あの日から空白だった席の机の上に白い紙が置いてあった。なんだろう。わたしはゆっくりとそこへ近付き、紙を手に取り驚愕した。そこに描かれていたのはわたしの笑顔。右下には愛しい"幸村精市"のサイン。そしてそのサインの上に乱暴に殴り書きをされたフレーズにわたしは身震いした。



すきだよ



幸村君だ。幸村君が病院を抜け出して、わたしに気持ちを教えてくれたんだ。



私もすきだよ



わたしは絵を掴んだまま彼の病院へ走り出した。




100427
二万打リク作品




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