「眼鏡取らないの?」
「なんも見えんくなるやろ」
「なんも?」
「なーんも」
一緒にお風呂に入ったら彼の素顔を見られるんじゃないかなとか思ったけど甘かった。なんで外さないの。曇るレンズをこまめに指で拭きながらにやりと笑う小春。
「そない見たかったのん?」
「小春の眼鏡外したとこ見たことないもん」
「外したらなんもでけへんもん」
「…えい」
「あっ」
悔しくなって両手で水を掬い小春にかけた。突然の私の行動に驚いたのか小春は庇う暇無くびしょ濡れに。
「何すんの」
「…べつに」
「濡れてもたやんか」
「え」
小春が眼鏡を取り、ぐいと顔を拭いた。案外簡単に取るもんだな。眼鏡の無い小春は何ていうか…爽やか?純粋そう。小春は焦点の合っていない目でこっちを見ている。
「…自分今どんな顔しとんの」
「ん?普通」
「あたしには肌色の塊が湯に浸かっとるようにしか見えんのやけど」
「わ、ただの肉塊」
「ふふ」
「あ」
小春が私の足を掴み、身体をこっちに倒してきた。ただでさえ狭い湯舟の角に二人固まる。私はあまりに近くてどきどきしているのに小春は相変わらず無表情のままこっちを見ている。
「ここどこ」
「おへそ」
小春の手が私の身体をなぞるようにするすると上がり、ぽんとお腹を抑えた。いやらしい手つきではないにしてもお互い裸なだけにそれなりに緊張。
「…ここは?」
「む、ね」
「ここ」
「…首」
小春の手は淡々と上がっていく。(手が胸に触れた瞬間少し反応してしまった私に小春はにやりとしていた)
「ここ」
「くちびる」
「ほんまに?」
「んぅ」
なんでいきなりキスしたの、って聞いたら、見えんかったから確認しただけ。って言われた。かなわない。
100516