※水鳥ちゃん→天馬ちゃん





「はーあ、いーなあ…」
「何がですか?」

葵に声をかけられてはっとなる。まさか声に出ていたなんて、あたしとしたことが不覚だ。
だって、部員にまったく相手にされていなかろうがそんなことなんてお構いなしに、心から楽しそうにボールを蹴る天馬を見ていたら、なんだか天馬とサッカーができる連中が急にうらやましく見えたのだ。

「いや、いいなと思ってね…天馬をあんなに笑顔にするサッカーとか、一緒にサッカーができる部員のヤツらがさ」

話しながら半分ため息が混じった。こんなもやもやした気分はあたしらしくない。どうしたんだろう。

「それって…なんだかサッカーにやきもち妬いてるみたいです」

葵がすこし微笑んで言った。…やきもち?あたしが、サッカーに?どういうことだ。わけがわからなくて変な顔をしていたら、葵があたしの気持ちを読んだみたいに続ける。

「だって水鳥先輩、天馬をすごく気に入ってるじゃないですか」

だから…と言ったあと葵は言葉を切った。うーん、と考える素振りを見せて、そのまま黙ってしまった。あたしを気遣ってなのか先を言いあぐねているようだ。

葵の言葉を頭で反芻するけれど余計にわからない。胸に煮え切らない気持ちばかりたまって気持ちが悪い。たしかに天馬のことは気に入っているけど、それがやきもちにどうしてつながるんだ。

らしくもなく複雑な気持ちにうなっていると突然後ろから話しかけられて思わず肩が跳ねる。

「水鳥先輩!」

よく通る変声期前のやわらかなボーイソプラノが心地よく耳に響く。あたしを呼んだその声の主を振り返り見た。一点の曇りもない明るい笑顔に、胸のなかでもやもやと滞っていた言葉や疑問がぜんぶ払拭される。

あぁ、これなんだ。
ちっともむずかしいことなんてなくて、ただあたしはこの笑顔が好きなんだ。
馬鹿みたいにまっすぐで、疑うことなんか知らなくて、底から溢れるような力を感じるこの笑顔が。

あたしは天馬のふわふわした髪の毛を思いきりくしゃくしゃとかき混ぜるように撫でた。
わっ、とくすぐったそうに眉を下げながらあたしの撫でる手を気持ちよさそうに受け入れる天馬を見て、なんだかかわいくてふ、と笑みがこぼれる。

「今日も練習、がんばれよ!」

天馬に負けない笑顔で、あたしもそう言った。






夏色(それはあるまぶしい夏の日の出来事でした)






水天は爽やかな初夏のようなイメージで書いてます
水鳥ちゃんも天馬ちゃんもでらめんこいね!



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