埃と黴のにおいが鼻をつく。
日陰に建てられているせいなのか、壁が断熱性の高い構造なのか、そこは夏だというのにいつもひんやりとして暗い。

重ねて置かれたマットの上で、もう日常のなかの営みと化してしまったそれはとても無遠慮なものだった。引き込んだのはまあ当然自分から、心をかき回す色々な汚いものを一瞬でも忘れたくて、そのはけ口に彼を選んだ。

申し訳ないという気持ちは始めのうちはすこしばかりあったのかもしれない。けれどそれも繰り返されていくごとに薄れてもう霧散してしまった。慣れとはおそろしいものだ。

「…っ く… !」
「ぅあ っ…!い… っは、ぁ…あっ」

しゅ、しゅ、とユニフォームの布地がこすれあう音。
床へ投げ出された手の、指先がたまたましまわれないまま立てかけてあったモップの柄に当たったかたり、という音。
どろりと濁った、ゲル状の液体が混ぜられる水音。
拍の短い、浅い二人ぶんの呼吸の音。
色気も、余韻も、ぬくもりもない、空っぽな声。ただ生理的に、息をするのと同じように漏れる声。

そこにあるのは、ただ欲を満たしたくて後輩をいいように抱く俺の醜いエゴだけだった。

「きゃ…、ぷて…っ! …んぁあっ―…!」
「…っ!」

この冷たい空間のすきまを縫うように松風の弱々しい喘ぎがとけていく。それにまた俺のもうあるかないかわからないような薄っぺらな理性が煽られて、身体の中に燻る熱とともに蕩かされた。

松風のことは好きではない。どちらかと言えば嫌いだろう。けれど、このやわらかいくせっ毛も、先を真っ直ぐに見つめる青い瞳も、今首に回されている細い腕も、あどけなさの残るあまい声も。
すべてが俺を惹きつけて離さない。すべてをこの腕の中におさめてしまいたい。すべてに惑わされてたまらない。

この感情の名前がわからないことには、形だけのセックスでしか彼をつなぎ止める術を持たない俺を誰もがきっと笑うのだろう。



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