部活動の時間も終わって、学内からはもうほとんど人の気配は消えている。俺と松風以外だれもいない教室の机を中途半端に開いたカーテンの間からさす夕陽が照らしていた。

俺は放課後松風を呼び出した。
今日の練習が始まる前に意味ありげにちょっと用があるから、とだけ言えば気のいい松風は疑うなんて微塵もしないで、わかりましたと控えめに笑う。松風は本当に純粋だ。
約束が取り付けられたうれしさで俺はどうやら練習の最中無意識ににやついていたらしい、速水になんだか妙に機嫌が良さそうで気持ち悪いと言われたので一発かるく殴っておいた。

部活が終わるのをこんなに待ち遠しく思ったことは初めてだった。
松風が着替え終わるのを待って、俺のクラスがある教室棟に向かう。俺の急ぎ足に小走りで慌ててついて来る様もかわいくて仕方ない。人が来そうな気配はなかったからいいだろうと判断した俺は、松風のやわらかい手を握ってみた。とたんに松風の肩がぴくりとはねて、すこし困ったような顔でこちらを見てくる。

「えっ、先輩…あの」
「…緊張、してる?」
「!あっ、はい、すみません!!」

ほっぺたをすこしだけ赤くして必死に謝る松風に思わず笑ってしまう。松風の仕種のひとつひとつすべてが愛おしくて、胸があたたかくなる。
ひとしきり笑ってから、ふたたび静けさが教室を包み込む。
その弛んだ空気を裂くように俺は言葉を紡いだ。

「ねえ、松風はさ…」
「…はい?」
「キスとかってしたこと、ある?」
「… っええぇ!?」

俺の言葉を注意深く聞いていた松風だけど、2、3秒固まったあと面白いほどに顔を赤くして驚きの声を上げる。よく見れば耳まで真っ赤だ。
両手を頬にあててあわあわと目線をあちこちに彷徨わすなんて、恋する乙女みたいなことをしてくれる。
俺を直視できないでいるらしい松風に追い討ちをかけるように、俺は松風と体を密着させて顔をぐいと近づけた。まだピンク色をしている耳元でもうひとこと囁いてやる。

「…してみる?…俺とキス…」
「ふぇ…っぁ、あの…」

耳は敏感なのか、真っ赤な顔を必死にこちらに向けないようにしながら首をすくめてくすぐったさに耐えているようだ。面白いので耳にふっと息を吹きかけてみる。

「…ひ、っやぁ…!」

途端に悩ましげな声が聞こえて、思わずむらりといかがわしい気持ちがこみ上げる。
もうどうにでもなれ、と松風の細い顎をつかんでこちらに向かせると、小さな唇にかみついた。

「…せ、ん…!?…っん…ぅ」

俺からの突然のキスに、松風は驚いてまるい大きな目をさらにぱっちりと開く。
制止の声も飲み込んでしまうくらいさらに唇を深く合わせた。

「まっ…!…ふ ぁ…っん… !」

もう薄暗い教室に、浅い呼吸の音と途切れとぎれの母音ばかりがこぼれ落ちていく。

「ん…松風、もうすこし…くち、開けて?」
「…っんぁ… は…っ」

もう既にとろんとした視線の松風を誘導してやると、いつの間にか俺の肩をぎゅっとつかみながら素直に俺の言葉を受け入れる。
必死に俺について来ようとする松風に、いけないと思いつつももっと、もっとと先を求めてしまう。

歯茎の裏側をねろりと舐めてやると、びくびくと肩を震わせる。逃げようとする舌を追いかけて、わざと大きな音をたてて吸ってやった。唾液がくちゅくちゅと絡みあう音が脳髄に響いてたまらない。

「…ん ん…っ、ふ…ぇ…」

松風の口の端からつぅと透明な糸が垂れる。その光景がなんだか妙に色っぽくて、俺の心臓が大きく波打った。

ようやく唇を解放してやった途端、松風はずるずると床にへたり込んだ。まだ耳は赤くて息も上がっていて、キスにまったく慣れていないのが一目でわかる。

「っ、は…ぁ… っはぁ…」
「腰立たないくらいよかった?…俺のキス」

冗談混じりにくすと笑ってみせたら、真っ赤な顔でキッと睨まれてしまったけれど上目遣いでは全然迫力もない。

「あ、ありえないですよ…!いきなり、こんな…!」
「はは…ごめん」

さすがにこれ以上からかったら本当に怒らせてしまいそうだったから素直に謝る。けれど怒る松風もかわいいかもな、なんて考えてしまったあたりかなり重症かもしれない。

「…でも……ちょっとだけ、気持ち…よかった…です」
「…!」

最後の最後で不意打ちを食らった。

ああもう本当、松風はこれだからかわいくてたまらないんだ。


今日はキスまで、つづきは今度のお楽しみにしておくことにしようか。





アール・ティーンエイジャー(彼らの恋はまだ始まったばかり)






やっとまともに蘭天をいちゃこらさせられた気がします
今回はえろに持ち込めず自分の技量不足に歯噛みするばかりでした
今度こそえろが書けるといいな…



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