※風介ちゃんが女の子
※苦手な方はまわれ右







きみはシュガーベイビー




風介は朝から機嫌が良くなかった。
風介の機嫌が傾く原因は大方恋仲にある晴矢のせいだったり、友人(と向こうは豪語してはいるがこちらとしては怪しい)であるヒロトの言動であったり、と、心当たりがいかんせん多いのだが、今回だけはそのどれも当て嵌まらなかった。

風介は今日、世間一般に言われる「女の子の日」を迎えていて、お腹や腰にかけて、沈むような重い痛みに思考を邪魔され、結果として機嫌を傾かされていたのだ。

風介のチームメイトはよく出来た者が多いらしい。
特に女子は身を以てそれを知っているからか、色々と静かに気を遣ってくれている。
何か温かいものでもご一緒にどうですかとか、ひざかけでもお持ちしましょうかとか、逆に申し訳ないくらいだ。

風介はそんな仲間にしんどい風を出来るだけ見せないように少し笑顔を作り、ありがとうと伝えた。


そういう事情であったので、今日は無理をしないで早く切り上げた方がいい、と瞳子に告げられた風介は、時々襲ってくる鈍痛に顔をしかめながらも帰り支度を進めていた。

と。

こつこつ。

ドア面と人差し指の関節が軽くぶつかり合う音が他の者は練習に出ていて風介以外誰もいない部屋の壁に反響する。

面倒だったので開けないでいたらもう一度同じ音がした。
それにも無視を決め込み、風介は黙々と支度を続けていると、どうやら諦めたのか音は止み、部屋には再び風介と午後の柔らかい陽射しだけが残った。

怠い身体に無理矢理言うことを聞かせ、ようやく帰るべく準備を終えた風介は部屋を出るためドアを開けた。

と、ドアの横に見知った顔――プロミネンスの主将であり風介の恋人である、バーン―もとい晴矢が腕を組んで立っていた。

あまりのことに驚いたのか、風介の翡翠にも深緑にも見える目が見開かれている。
晴矢は風介を見遣り一言、
「今日、しんどいんだろ、送ってやるよ」
とだけ告げた。

何故ずっと待っていたのかとか、誰に事情を聞いたんだとか、色々質問したかったが、腰が訴えてくる鈍痛にもういいかと懐柔されてしまった。
どうせ聞かなくても勝手に喋るだろう、と晴矢の性格を見越し風介はありがとうとお礼を口にした。

靴を履きかえたところで、やはりしんどそうな風介に、晴矢はおぶってやるよと言って恥ずかしさから首を縦に振らない風介を無理矢理背に抱え上げた。

サッカーをしていても、普通に喋っていても風介は他のメンバーと違って女性らしさをあまり感じない。
別に貶すわけでなくそれは彼女自身が女性らしさをひた隠しにしているせいだからだ。
女だからと馬鹿にされたくないからと、歯を食いしばって厳しい練習に日夜耐える彼女は、男の自分から見ても眩しかったことを覚えている。


けれど背中にいる彼女の軽さに、触れ合う肩や身体の柔らかさに、ふわり鼻腔をくすぐる、特有の甘い匂いに。
ああ、彼女は女の子なんだなと、晴矢はあらためて思い知らされたのだった。


帰り道、やはり風介の思った通り晴矢はなんで今日風介がいないのか不思議に思ってダイアモンドダストの女子にその事情を教えてもらったこと特にクララに聞いたらちょっと嫌な顔をされたこと、自分のチームメイトに今日だけは早退させてほしいと頼んだらヒートとレアンに冷やかされたこと、急ぎすぎて靴を脱ぐとき転びそうになったことなど、風介が聞かないことまで細かく話して聞かせた。

くるくると表情を変えながらそれを話す晴矢の声は、普段の激しい彼からは想像できないくらいやさしくて、ともすれば風介は眠りの中に身を預けてしまいそうだった。

ひたすら背伸びして追い付こうとしていたけれど、彼は紛れも無く男で、自分は女で。
埋めようのない隙間がいつも悔しかったけれど、今はそんな晴矢の背中の広さが、暖かさが心地いい。

背は今の自分とあまり変わらないけれど、背中は随分と広い。
見かけではそんなこと全く感じさせないのに。

さっきだって、自分のことを軽々と持ち上げてしまって。

一定の優しいリズムを刻む心音が気持ちよくて、いつの間にか風介は瞼を下ろしたのだった。


しばらく歩いて家の前に着き晴矢はドアの鍵を開けた。

すうすうとかわいらしい寝息を立てて眠る風介を、晴矢は静かにベッドに下ろす。

透けるように白い肌は頬に淡い桜色が差していて、肌目が細かくすべらかで柔らかい。
薄い色合いの髪の毛はふわふわとあそび、電灯の光を反射して蒼にも銀にも見える。
同じ色の睫毛は長くて、閉じられた瞼の下に影を作っていた。

それはまるでガラスの棺に納められていたお伽話のお姫様のようで。
晴矢はつい、その完成された美しさに目を奪われてしまった。

慌てて風介の上着だけを脱がしてハンガーに引っ掛けて、自分も同じようにして。

そういえばどうして調子が悪かったのかは聞かなかったなと、晴矢は思う。
まあ後で聞こう、と考えをあらため、晴矢は風介が起きたときのために、あったかはちみつミルクでも作ってやろうとキッチンに向かった。











(風介って砂糖菓子みてー)
(なんで)
(柔らかくて、甘いから)
(…ばか)


(そんな君だって、充分、甘い)






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