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俺は基本的に目に見えないものや非現実的なものは信じない質だ。だから幽霊や占いは俺が最も興味を示すことのない話題だった。どうして、触ることも見ることも出来ないものを怖がったり、一分先のことすらわからない未来のことを適当に言われてそれに一喜一憂したりするのだろうか。
いつの時代になっても女子やオカルト好きなやつらの思考回路は変わらないらしい。
つい先日の休み時間も、クラスメートの女子がそういった雑誌を開いて楽しそうに雑談していた。その横をふと通り過ぎようとした俺の目に、「今月は四つ葉のクローバーモチーフのものを好きな人や恋人にわたすと、幸運が訪れるよ」と書かれた大きな見出しのカラフルな文字が飛び込んできた。それを見たとたん俺の頭にある人物のことが浮かんだ。学園内で知将とされ、見た目とは裏腹に細やかな気配りが出来るけれど、恋愛に関しては奥手で全く慣れていないというのが態度に出るほどの初心者で、それでも俺の愛情表現にぎこちなく応えてくれるかわいい俺の恋人、エスカ・バメルのことだ。
俺は基本的に他人のために何かをする、したいといった感情が無に等しいほど起こらない人間だったのだが、エスカを好きになってからその感情を根底から覆されるようなことが多くあった。恋愛は人を変える、というのは本当なんだなと身を以て知る。
俺が今こうして草の中に這いつくばっているのもそうだ。それに嫌悪感を感じないどころか、エスカの反応を想像すると自然と笑みまでこぼれてきてしまう。そんな俺は相当彼に惚れ込んでいるようだ。


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さすが、見つけたら幸運が訪れるだの言われるだけはある。三つ葉のシロツメクサはもう見飽きたというのに、探し求めている四枚の葉のついた茎は今の今まで一本として見つからない。俺がここへ来てからおそらくはもう二、三時間は過ぎただろう。30分ごとに鳴る学園のチャイムが何度鳴ったかわからない。それでも、四つ葉のシロツメクサを見つけるまではと草を選る手は止めなかった。
そうしていると、不意に俺の視界にすり切れた軍靴が現れ、人の形に暗く影が落ちる。顔を上げると、だいぶ低くなった日を背に受けながら俺を見下ろすエスカが立っていた。

「何してんだよ、ミストレ。んなとこに這いつくばって、探し物か?」




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