なんの前触れもなくふ、と目が覚めた。
円堂のいるイナズマジャパンに引き抜かれて以来初めて迎える2月の朝だった。
80年前のこの年の冬は気候が安定しないのか、日によって寒かったり暖かかったりとまちまちだ。今日はよく晴れているが気温はさほど高くないらしい。あまり厚着をしないせいもあるのだろうが、部屋の冷たい空気が体に染みて少しだけふるりと身を固くする。

寝ていた際に少し乱れてしまった髪の毛をかるく指でとかそうと頭に手を伸ばすと何かやわらかなものが触れた。慣れない感触のそれはふわふわしていて生暖かい。くにくにと確かめるように触ると、触られている感触が伝わってくる。…神経まで通っているということは、これは俺の頭に生えていると考えるべきなのか。
机にあった鏡で自分を見ると、髪の毛と同じ色のふさふさした…例えるなら猫の耳のようなものがぴんと上を向いて生えていた。
耳にばかり気を取られていたが、寝間着のズボンにも違和感を感じる。恐る恐る中に手を入れてみると案の定、というか耳と同じような触り心地の立派な尻尾まであった。

一体何故こんなものが突然生えてきたのか皆目見当もつかないが、これといって身体に不便を来しているわけでもないし、すこし違和感こそあるが気にしなければいいだろうと自分にしては至極楽天的な結論にたどり着く。こんな事態の解決策はイナズマジャパン内では見つけられそうにないだろうと見越したのもあるが。

全く未知な事態に遭遇してしまうと思考回路はうまく働かなくなるらしい。気がつけば時計は練習開始時間までもうあと数分の時刻を差していた。
慌ててイナズマジャパンのユニフォームとジャージに袖を通したところで、ノックの音が聞こえて円堂が部屋のドアを乱暴に開けた。

「バダップ!大丈夫か!?…ってそれっ…?」

どうやら俺が体調不良だと考えたらしく心配そうな面持ちだったが、俺の頭と腰に生えるそれを見つけた途端、不思議そうに語尾を上げる。

「…朝起きたらこうなっていた。心配をかけてすまない」

とりあえず黙っていたことと遅れそうになったことに謝罪を告げる。

「そっか、具合悪いとかじゃないならよかった!でもそれ…本物?」

ほっとした表情を浮かべた円堂だが、どうやら興味のほうは完全に耳と尻尾にあるらしい。信じられないといった風だが、まじまじと視線を送られ少々気恥ずかしくなる。

「一応確認してみたがおそらく本物…だろうな…」
「ふぅん…でも不思議だなぁ?」

もう一度ベッドに腰を下ろし、ため息混じりにつぶやく。それに合わせて視界の端で尻尾もゆらと空気をなぞったように見えた。
いつの間にか隣に円堂も座って相槌を打つが、視線は依然耳と尻尾ばかりを追っていた。少しの沈黙を挟んで、次にゆっくりと口を開いたのは円堂だった。

「…なぁなぁ、…その…触ってみても…いいかな?」

好奇心と期待に満ちた真っ黒な丸い瞳に、ぱちくりと間抜けな表情の自分が映る。何を恐る恐る言い出すかと思えば。

「…別に触っても何もないが」

きっぱりと了承の返事をするのはなんとなく照れくさくて遠回しな言い方になったが、円堂ならプラスに解釈するだろうと見切る。瞬間ぱぁと円堂の顔が明るくなり、いっぱいの笑顔でありがとう!バダップ!と言われ、胸の辺りがきゅんとくすぐったくなって思わず視線を反らした。

「わ、思ってたよりふわふわしてるなぁ…」

楽しそうに俺の耳を触って感嘆の声を上げる円堂だが、円堂の触り方なのかどうにももどかしいというか、ぞくぞくと何かが背から沸き上がるような感覚にそわそわと落ち着かなくなる。円堂の指が自分に触れていることに嫌でも胸が高鳴る。今更、触ることを何故許可したのかと後悔するけれど遅い。
ぐるぐると複雑な気持ちに煮え切らないでいたら、下半身から電流が走ったような感覚が襲ってきて、思わず肩が大きく跳ねた。

「ぅあっ…!?」

同時に円堂もびっくりしたようで、うぉっ!?なんて声が背中から聞こえる。

「どうした?なんか痛かったのか?」

俺は普段あまり大きな反応をしないので何か異常でもあったのかと気遣う風が見受けられるが、そうじゃない。

「、っ…あんまり…その…尻尾は…」

触ってほしくない、と言おうとしたところで、その言葉は円堂の唇によって行き場を失ってしまった。

「ん…っ、ぅ… ふぁ…」

生暖かい舌がぬるりと口の中を舐めていく感覚に意識ごとすべて絡め取られてしまいそうだ。
意識がぼんやりととろけそうになったところで、ゆっくりと唇が離れていった。

「…ごめん、なんかバダップの顔見てたら…その、キスしたくなって」

円堂が視線を外しながらぼそぼそと言い訳を口にする。先程の奪うようなキスが嘘のようだ。
それこそ猫の目のようにくるくると入れ替わる円堂の、明るく優しい部分と男の部分に、自分はどうしようもなく惹かれているんだろうなと感じる。

「…構わない。ただ…もう今日は練習は無理だな…」

するりと円堂の背に腕を回し、ベッドに寝転ぶ。こんな行動を取るなんてきっと耳と尻尾のせいだろうと心の中で自嘲気味に笑った。
円堂が一度ふ、と笑って、俺の上に覆いかぶさってきた。
イナズマジャパンのチームメイトには申し訳ないが、円堂も俺も今日の練習はお預けだ。



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