クリスマスが間近になった12月のある日。
部屋で流れるクリスマスソングをBGMに、ディランは俺にこうたずねてきた。

「ねえマーク、クリスマスには何が欲しい?」

サンタクロースからのささやかな贈り物を楽しみにする子どもと同じように声を弾ませ期待に満ちた顔で。

「…サンタクロースにお願いするものの話か?」

ディランの話はいつも唐突にはじまる。
ディランと幾年も過ごしてきた俺は、彼の話すことばの一つひとつから彼が何を言いたいのか、勘をはたらかせて丁寧に追っていく。
おかげさまで勘はいい方だと自負できる。
しかし今回は巡らせた勘がどれも外れてしまったようだ。

「違うよー!ミーがマークにあげるプレゼントの話!マークは何か欲しいもの、ある?」

ディランから珍しく否定の言葉が出る。

「それって先に俺に言ってもいいのか?」

さすがにその先までは俺にもわからないので質問を質問で返す形になったけれどしかたない。
俺はディランの中にある言葉を待った。

「いいんだ!サプライズにするのも考えたけど、例えいいことでも、それがクリスマスまででも、ミーはマークに隠し事なんてできないからね!」

ディランからのさりげない言葉に、もうプレゼントをもらってしまった気分になってしまう。
ディランの愛情表現はやさしくていつも心地いい。
だからつい頬がゆるんでしまうのは許してほしい。

「それで?マークは何がほしい?」

きらきらとディランのアイガードの向こうの瞳が輝く。
その瞳に期待をこめてゆっくりとたずねてみた。

「なんでもいいのか…?」
「うん!ミーが出来ることならなんだって叶えてあげる」

自信たっぷりに任せて!と答えるディラン。
昔からこう言われると、とても心強くて安心した。
ディランの「任せて!」は俺にとって魔法の呪文みたいな言葉だ。

「じ、じゃあ……えと…」

でも今回は自分がディランに求めるものが少しばかり恥ずかしい。
胸の辺りにそわそわと言葉がつかえてうまく出てこない。
ぐ、と力をこめて、のどの奥から気持ちをしぼり出すように。

「い…いつもよりたくさん…は、ハグ…と…キス……してほしい……」

俺の言葉のようなそうでないような、途切れとぎれの単語の羅列を耳にしたディランは一瞬、目と口を開けて。
いわゆる、きょとん、という擬音語がつけられそうなくらいだ。
この「間」はどうしようもなく恥ずかしさをかき立てて、口にしたことを後悔へと持っていくには充分だった。

「う、あ…っやっぱいい…!!
い、今のはなしで」

熱くなった頬も、今言ったこともなかったことにしたい。
左手の甲を口の近くに持っていくのが俺の照れ隠しの癖らしい。
視線を合わせられなくて、どこでもない適当な空中を見たとき。
ディランの匂いとあたたかさが、ふわりと俺を包んで。
冷たくなった耳に、ディランのやわらかい声が響く。

「Merry Christmas,Mark…
…これからもミーの隣でずっと、ずーっと笑ってて…」

振り返ると、アイガードを外して真剣に俺を見るディランの綺麗な瞳と視線が合った。
そのままディランの唇が頬と額と鼻先にやさしく触れて、最後に俺の同じ場所にゆっくりと合わさった。

窓の外はもう夕陽が落ちて、聖夜のやわらかな闇の中にちらちらと白い雪が踊りはじめていた。




「Happy Merry Christmas!」






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