「なら、俺と出かけないか?クリスマスは俺も空いているし、音無さえよかったら…どうだろう」

予想もしなかった佐久間さんの言葉に、わたしの頭はまた細胞間の信号の伝達を止めるしかなかった。

「は…え …っと、あの、わたしと…佐久間さんが、ですか?」
「ああ…別に嫌なら無理にとは言わないが」
「っいえいえそんな!嫌だなんてとんでもないですよ!!」

慌てて否定する。
遠慮でもなんでもなく、本心だ。
佐久間さんに誘われて嫌だなんて言う女の子がどこにいるというのか。

「こっちから誘っておいてなんだが、ありがとう」

控えめににこ、と笑いかけてくれる。
佐久間さんのこんな表情はきっとなかなかお目にかかれないだろう。

「でも意外ですね、佐久間さんのことだから、彼女くらいいると思ってました」

沈黙が苦手なわたしはたった今思ったことを口にした。
すると佐久間さんは、はは、と短く笑う。
馬鹿にしたとかじゃなくわたしの発言への優しい相槌だ。

「俺はサッカーばかりやっているから、彼女なんかできないさ、音無こそ、かわいいから彼氏くらいいると思ってたぞ」

どうして佐久間さんに彼女がいないのか本当に理解できない。
こんなにさりげなく、こっちが赤面するようなことを言ってのける人が。

赤面だけじゃなく、佐久間さんの発言をうれしいと思う自分もいて、なんだかくすぐったい気持ちだ。

「いっ、いませんよー!わたしだって、サッカー部のマネージャーばっかりやってるんですから」

顔が赤いのを笑ってごまかそうとしたけれど、うまくいったかわからない。

「はは、そうか、お互いサッカーバカか」
「ふふ、ですね」
「…でも、音無に彼氏がいなくてよかった」

ふと上を向いた佐久間さんの意味深な発言に、心臓がどきりと音を立てる。

「それって、どういうこと…ですか…?」

佐久間さんがわたしに顔を向けるまでの時間が、いやに長く流れる。まるでコマ送り再生のようだ。
その一瞬のあいだに、心音がどんどん高まっていく。

はやく。はやく。

ようやく佐久間さんと目が合って、佐久間さんが口をひらいた。
とたんにわたしの耳殻から、佐久間さんの心地いい声が外耳を通ってうずまき管へ伝わり、脳に信号として届く。
それはほんの一フレームの出来事だった。

「俺が音無と、付き合いたいと思ってるから」

なんの躊躇もなく、そよ風が吹き抜けるようにさらりと言われたその言葉は、わたしの神経細胞間の伝達速度を滞らせるには充分すぎて。

喜怒哀楽よりも先に、これは本当なのかしらと信じられない気持ちが先立つ。

「えっ、え…っ ほ、本当…ですか?」
「俺はこんなことに嘘はつかないぞ、もう一度言う、好きだ、音無 俺と…付き合ってほしい」

あぁ、わたしはこの瞬間に、人生の幸運というものを使い切ったんだ、でなければ、こんな。


佐久間さんに返事をしようとしたら、無意識に涙ぐんでいた。
うまく声が出なくて震える。

「…っ、はい…っ、はい…!」

ただうれしくて、うなずくしか出来なくて。
しあわせと一緒に涙が込み上げてきて、視界がとろけた。

佐久間さんが、わたしのさらさらでもストレートでもない髪を、ゆるゆると梳いてくれた。







聖夜に落ちたのは(サンタクロースと流れ星、それと)





佐久春さりげに好きです





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