※ひと足先にクリスマス
はぁ…
ため息をつくと幸せが逃げるなんて、だれかから聞いたことがある気がするけれど、ため息をつく前にわたしのしあわせは逃げてしまった。
12月22日、今年ももうあと一週間だかそこらで終わってしまう冬のある日。
世の中の恋人たちや家族が、しあわせに過ごす聖夜の三日前。
わたしのケータイに、遊びに行こうと約束していた友達から「家族との外せない用事が入ったから、遊びに行けなくなった」というメールが入ってきたのだった。
サッカー部のマネージャーの仕事をやりだしてから、なかなか遊びに行く機会がなかったので久しぶりの休暇だととてもわくわくしていたのに、そのメールによってわたしは聖なる日を一人で迎えなくてはならなくなった。
廊下を歩きながら、約束が反故になってしまったために大きく時間の空いたクリスマスをどうやって過ごそうかということを考えて、また今日何回目かわからないため息が口からこぼれた。
すると、雷門中学にいないはずの人の声がわたしの動きを止めた。
「…音無?どうしたんだ、浮かない顔をして」
思わずまばたきを2回して、その人物に焦点を合わせる。
「さ、佐久間さん…!?なんで雷門中にいるんですか?」
制服は帝国学園のものだけど
なぜ今佐久間さんが雷門中に来ているのだろう、と突然の出来事に混乱する。
落ち着いて考えたら、兄に会いに来たのだろうなんてすぐわかったのに、突然すぎた佐久間さんとの再会にわたしの頭は考えることを放棄してしまったみたいで、ただただ驚くばかりだった。
「あぁ、鬼道に用があって、ここで今日放課後に集まろうと約束していたんだ」
佐久間さんに言われて、あ、そうかと納得する。
「そうだったんですね、いきなりだったからびっくりしちゃいました!」
素直に思ったことを伝える。
「びっくりさせてすまなかったな、…ところで、さっき元気がないように見えたんだが
大丈夫か?」
かるい謝罪の言葉を告げたあと、佐久間さんはわたしを気遣う言葉を続ける。
さっきの一瞬だったのに、わたしの気分を見抜いてしまうなんてさすが鋭いなぁ、なんて頭の隅で思いながら、佐久間さんの問いかけに答えた。
「あ…すみません、クリスマスに約束してた友達が、家族との用が入ったって遊べなくなっちゃって…ついてないなって思ってたんです」
あらためて話したらまた残念な気持ちが込み上げてきた。
またため息が出てしまいそうだ。
「そうか…それは残念だな…なら鬼道はどうなんだ?」
「お兄ちゃんは、財閥のパーティーがあるからそっちに出なきゃって…」
「そうか…」
友達との約束もだめになってしまったし、兄も用があるから無理で。
やっぱり一人で家でゆっくりするしかないかな、という結論に頭がたどり着こうとしていたその時。
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