フィディオは甘いものが好きだ。
好きなんて程度ではない。
心から甘いものを愛しているということが、彼の甘いものを食べる時の表情や、店選びの詳しさ、スイーツを見かけた時それらに注ぐきらきらした視線なんかから手にとるようにわかる。
昨日だって、練習が終わって早々と着替えを済ませると、
「今日は3丁目のケーキ屋で2時から5時まで限定販売のアップルパイ買いに行くから、俺先に帰るな!」
なんて、うきうきとした軽い足取りで大きなまるい目をうれしそうに細めて、頬をほんのり染めながら部室を出ていく始末。
甘いものに目がないうちの副キャプテンは、これから好きな人に会いに行く女の子にも負けないはしゃぎぶりを見せてくれた。
ジャンルカなんかは甘いものが苦手なようで、「フィディオはまたあんな甘いもの食いに行くのかよ…」なんて口をへの字に曲げていたけれど。
自分はフィディオほどではないが、そんなに甘いものは嫌いではない。
世間一般の好み程度には嗜むし、疲れた時はチョコレートやキャラメルなんかによくお世話になっている。
専らそのチョコレートやキャラメルをくれるのはフィディオだったりするのだが。
とはいえ、フィディオが自分の気に入りのキャンディやキャラメルを人にもおいしいと喜んでほしいという気持ちをにじませながら満面の笑みでそれらをさし出してくれるのが実は好きだったりする。
自分の方がフィディオより背だって小さいし顔も幼く見られることが多いけれど、こういう時のフィディオはすごくかわいいと思う。
この笑顔で好きだよなんて言われたら、女の子やお姉さんどころか男の人だって恋に落ちてしまうんじゃないかと変な心配までしてしまうほどだ。
今日も練習が終わって、それほど疲れてないけどひとつため息でもついてみれば、フィディオがそれに気付いていつの間にロッカーから取り出したのだろう、かわいらしいデザインの包み紙にくるまれたチョコを僕に渡しに小走りで近付いて来てくれる。
「アンジェロ、練習お疲れ!よかったら、これ…」
そう言って、細い指で、チョコをひょいとつまみあげてにこりと笑う。
僕がちょっとだけ演技をしているなんて露ほども知らない純粋なフィディオに、思わず自分の中にあるちいさないたずら心がひょこりと顔を出した。
「ありがとう、フィディオ」
まず先にお礼を言ってチョコを受け取ることは忘れない。当然、こっちも笑顔で。
「あっそうだフィディオ、」
ここからがいたずら本番だ。
なんにも知らないかわいいフィディオは当たり前に僕に顔を近付けて僕が切り出した話を聞く姿勢を取ってくれた。
そんなフィディオからキスを奪うなんて、どんな幼児にだってたやすいことだ。
自分の唇をフィディオの同じやわらかいそれにかるく押しつける。
次の瞬間ちゅっとちいさく音をたてて、お互いの口と口を離した。
あまりに一瞬すぎたけど、それを残念だなんて思ったらさすがに罰が当たりそうだから
そこは心の中にしまっておくことにした。
フィディオは少しのあいだ制止していた。
多分僕の行動に頭が追いついていないのだろう。2、3秒してから、顔を赤くして唇を押さえるフィディオ。よく見たら耳まで真っ赤だ。
そんなフィディオをやっぱりかわいいと思いながら、
「フィディオ、ごちそうさま!」
なんてウインクをひとつプレゼントしてあげた。
小悪魔ショコラティエ
(大丈夫か?フィディオ、顔真っ赤だぞ)
(…っああ…!大丈夫、ちょっと暑かっただけだから…)
(あ、アンジェロのバカ…!)
アンジェロちゃんは小悪魔だといい